2018年4月 - 2023年3月
19世紀イギリス小説史の正典形成とセンセーショナリズム
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
本研究では、イギリス小説史の正典形成において重要なファクターとなる階級問題を考察するうえで、ハイド・パークにおける上流社会の集いと、その階層への侵犯を試みる高級娼婦(pretty horsebreaker)の表象をひとつの大きな切り口としている。この社会的事象を正典作家が忌避する傾向にあるなか、George Eliotが『ダニエル・デロンダ』において、その危険領域への突破をいかに成し遂げているかを明らかにした論文は昨年に発表した。
一方で、Eliotと並ぶヴィクトリア朝を代表する正典作家Dickensの場合、センセーショナルな事件を小説の駆動力として取り込むことにやぶさかではないものの、国民的作家としての彼のpaternalismの向かう先は、もっぱら(高級娼婦とは対極にある)労働者階級の売春婦である。そのなかで上流社会に属する「過去のある女」が描かれた珍しい例として『荒涼館』というテクストが挙げられる。このテクストにおける高級娼婦の表象分析は続行中であるが、それと並行してまた別のセンセーショナルな事件と本テクストとの関係が浮上してきた。当時ひとつのブームとなりつつあった「水治療」の施術者であるレイン医師が人妻と不倫関係をもったとして、その夫が起こした裁判事件である。水治療の患者のなかには著名な作家、著述家、その関係者たちも多数おり、Charles DarwinやGeorge Eliot、Dickens妻のCatherineもそうであった。医学、社会、文化、文学等々の言説が交錯する水治療という現象の磁場で働いていたセンセーショナリズム的な力と、Dickensの正典小説を構成するセンセーショナルな事件がいかに響き合うかを分析しつつ、まずは19世紀イギリスにおける水治療の実態について、DarwinとDickensとを切り口に調査した研究結果を2021年度の紀要において発表した。
一方で、Eliotと並ぶヴィクトリア朝を代表する正典作家Dickensの場合、センセーショナルな事件を小説の駆動力として取り込むことにやぶさかではないものの、国民的作家としての彼のpaternalismの向かう先は、もっぱら(高級娼婦とは対極にある)労働者階級の売春婦である。そのなかで上流社会に属する「過去のある女」が描かれた珍しい例として『荒涼館』というテクストが挙げられる。このテクストにおける高級娼婦の表象分析は続行中であるが、それと並行してまた別のセンセーショナルな事件と本テクストとの関係が浮上してきた。当時ひとつのブームとなりつつあった「水治療」の施術者であるレイン医師が人妻と不倫関係をもったとして、その夫が起こした裁判事件である。水治療の患者のなかには著名な作家、著述家、その関係者たちも多数おり、Charles DarwinやGeorge Eliot、Dickens妻のCatherineもそうであった。医学、社会、文化、文学等々の言説が交錯する水治療という現象の磁場で働いていたセンセーショナリズム的な力と、Dickensの正典小説を構成するセンセーショナルな事件がいかに響き合うかを分析しつつ、まずは19世紀イギリスにおける水治療の実態について、DarwinとDickensとを切り口に調査した研究結果を2021年度の紀要において発表した。
- ID情報
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- 課題番号 : 18K00383
- 体系的課題番号 : JP18K00383