

木下 知威
基本情報
- 所属
- 東京科学大学 リベラルアーツ研究教育院
- 学位
-
博士(工学)(横浜国立大学)
- J-GLOBAL ID
- 201101058989538858
- researchmap会員ID
- B000001552
- 外部リンク
建築学・メディア学を中心に、近現代日本における盲唖学校、盲人(視覚障害者)や聾唖者(聴覚障害者)の身体とその言説・コミュニティに関する研究を行っている。
盲唖学校(もうあがっこう)とは、盲人とろう者が自立生活を営めるように一般教育と職工教育を行った学校であり、現在の盲学校と聾学校の原素である。
以下の写真(図1)は明治30年代後半と考えられる長崎盲唖院の写真であり、盲・ろうの生徒が写っている。この時期は現代のような義務教育ではないため、年齢のはばが大きい。大正後期から戦後にかけて、盲唖学校は盲学校とろう学校に分かれていったため、現在の盲人とろう者は個別のコミュニティを形成しているが、明治期は盲人とろう者が盲唖学校の中で集団を形成し、共同生活を営んでいたのである。また、多くの盲唖学校は慈善事業・社会福祉事業として地域の有力者から金銭的援助を受けていたケースが散見される。こうした点に着目し、日本における異文化交流や身体障害の認識変容について研究を行っている。
図1:長崎盲唖院 集合写真(長崎県立盲学校蔵、無断転載禁止)
背後の建築は「長崎聖堂」と考えられています。
最近は以下のテーマに基づいた研究を行っている。
(1)近世末期・近代における建築と社会的基盤の形成 --- 盲唖学校を中心に
近世末期の日本では、西欧の思想と科学技術とともに盲唖教育(視覚障害教育と聴覚障害教育の総称)が洋学者層を介して国内に浸透していった。明治維新以降、盲唖教育を維持する社会的基盤が「盲唖学校」というくくりの建築空間としてなりたち、京都盲唖院(明治11年開校)と東京盲唖学校(明治13年開校)を中心に各地へ展開していく。その維持には行政からの予算だけでなく、皇族や地域の有力者による金銭的・物理的支援もひんぱんに行われていた。
このような、盲唖学校が維持される基盤について建築計画学・建築史、思想・社会・文化、ひいては慈善(チャリティー)、企業善(フィランソロピー)の視点から検討している。
(2)盲唖学校から盲学校・聾学校へ分離するさいの建築空間の変遷
盲唖学校は視覚障害、聴覚障害といった異なる身体障害者が同じ学校に通学している。その建築空間はふたつの障害に区分して管理されてきたが、大正後期から昭和戦後にかけて緩やかに盲学校と聾学校に分離していった。盲唖学校から盲学校・聾学校に変容していくなかで、その建築空間の特徴を建築計画学・建築史の視点で明らかにしようとしている。
(3)盲人・聾者にたいする身体観の形成史
中世から近現代日本における政治機構や社会の変化に伴って、身体障害者への視点も変容してきた。たとえば、中世・近世の盲人は集団を形成し按摩・芸能に従事してきたように、ある程度固定された職業観と身体観があった。その一方で被差別層に障害者がいたこともしられている。そこで、近世の蘭学・洋学者、儒学、医師などの学識層あるいは町人層の言説に基づいて近世・近代における盲人・聾者の身体観の形成過程を分析している。
(4)近代における盲人・聾者によるコミュニティの形成・展開
近代は、盲唖学校の空間を基盤に、盲人・聾者が集団を形成することができた。すなわち、当事者の共同体がなりたつことで、社会にたいする集団的参加が可能となる時代でもあった。そこには、近代における障害者とは何か、社会にたいして「役に立つ」ということはどういうことなのかという当事者たちの苦悩が同窓会雑誌などから確認できる。それとは別に、日清・日露・第二次世界大戦によって失明した軍人も巻き込んだ障害者運動が展開されている。そうした、身体障害者であるがゆえに可能な、コミュニティの形成と運動の展開の過程について分析している。
1950年代からノーマライゼーション、インクルーシブデザイン、バリアフリー、ユニバーサルデザインといった共生のためのデザインの考え方が引き継がれ、発展していったプロセスも加えることで、近代から現代にわたる身体障害者との共生のあり方について明らかにしたいと考えている。
(5)明治時代の身体障害者の補装具・教材の開発とその受容
点字、手話、指文字、車椅子、義肢など明治時代の身体障害者にとって不可欠な補装具・教材が日本国内に受容されていくプロセスは一筋ではなく、さまざまな人たちによる開発と発展があった。パラダイムというべき点に着目して分析を行うことで、日本における身体障害者の身体イメージの形成について明らかにしたいと考えている。
(6)明治期の障害者教育における教育手法をめぐる受容史
明治期の教育行政に関わった田中不二麻呂、手島精一、伊沢修二、小西信八、古河太四郎といった教育行政にかかわった政治家や、実際に現場で障害児教育を行った人物の活動を検討し、国内外の障害者教育論の受容と方法論的発展について考察している。
(7)アーティスト、音楽家との共同制作・対話
木下は生まれたときから耳が聞こえないろう者である。現代美術のアーティストや音楽家と共同で制作・対話を通じて「ろう」という身体性について思索を深めている。
【教育】
わたしは耳が聞こえないため、講義・演習では、グーグル・ドキュメント、Zoom、UDトーク、WorkFlowy、合成音声、手話通訳者の配置など多様な方法を用いて進めています。
また、教育においては「対話」を重視して導入しています。
2022年度から2025年度にかけて東京都美術館と東京芸術大学の「とびらプロジェクト」のアート・コミュニケータとして関わりました。このプロジェクトは市民と美術館が共同でコミュニティを作っていくことを目的にしており、対話型鑑賞や建築ツアーなどさまざまなプロジェクトを実施しています。このなかで、議論を重ねながら、互いの価値観を認めあうことを重視した学びと実践をしてきました。
ほか、手話マップの代表としても活動しており、耳の聞こえない方・聞こえにくい方、聞こえる方が美術館のなかで対話できるための環境づくりを推進してきています。こうした経験を生かし、教育のなかで対話を意識的に導入しています。
また、2025年3月に、多様性のある社会におけるアクセシビリティを推進するための知識を有する「2級アクセシビリティリーダー」の資格を取得しています。
【お願い】
電話ができません。打ち合わせ等は、筆談、手話、メール、対面しながらのチャット(ZoomやGoogle Documentなど)、UDトークなどの音声認識アプリの使用といった視覚的な手法でやり取りをしています。
学歴
1-
2004年4月 - 2010年3月
研究分野
7委員歴
6-
2010年4月 - 現在
-
2022年4月 - 2025年3月
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2023年10月 - 2024年3月
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2020年4月 - 2022年3月
-
2017年4月 - 2018年12月
-
2005年4月 - 2006年3月
受賞
2-
2012年9月
-
2010年3月
書籍等出版物
11-
平凡社 2024年3月 (ISBN: 9784582207354)
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臨川書店 2022年12月 (ISBN: 9784653046325)
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丸善出版 2022年7月 (ISBN: 9784621307243)
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KADOKAWA 2021年11月 (ISBN: 9784044005665)
-
アルテスパブリッシング 2021年10月 (ISBN: 9784865592405)
-
岩波書店 2019年2月22日 (ISBN: 4000613170)
-
国立台湾大学出版中心 2018年11月 (ISBN: 9863502820)
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芸艸堂 2013年11月 (ISBN: 4753802736)
-
東京書籍 2012年6月21日 (ISBN: 448780678X)
-
電子書肆 さえ房 2012年4月 (ISBN: 9784990609108)
-
彰国社 2010年4月
論文
17-
ユリイカ 56(7) 208-218 2024年6月 招待有り筆頭著者
-
ユリイカ 56(1) 148-165 2024年1月 招待有り筆頭著者
-
美術手帖 76(1100) 246-259 2023年12月 招待有り筆頭著者
-
住総研 研究論文集・実践研究報告集 49 191-202 2023年3月 査読有り筆頭著者
-
東京国立近代美術館研究紀要 26 124-130 2022年3月
-
ユリイカ 53(1) 181-191 2020年12月 招待有り
-
ユリイカ 52(7) 241-254 2020年6月 招待有り筆頭著者
-
一滴 (26) 1-112 2019年3月 招待有り
-
手話学研究 26 53-102 2017年12月 査読有り招待有り
-
名古屋大学大学院経済学研究科附属国際経済政策研究センター E17-6(17) 2017年9月
-
日本建築学会計画系論文集 77(672) 427-436 2012年2月 査読有り
-
日本建築学会計画系論文集 75(651) 1025-1034 2010年5月 査読有り
-
日本建築学会計画系論文集 75(647) 25-34 2010年1月 査読有り
-
日本建築学会学術講演梗概集, E-2, 建築計画II, 住居・住宅地, 農村計画, 教育 377-378 2006年
-
工学府工学研究マネージメントプログラム研究成果報告書 111-116 2005年 査読有り
-
日本建築学会学術講演梗概集. E-2, 建築計画II, 住居・住宅地, 農村計画, 教育 201-202 2004年
-
学術講演梗概集 E-1 建築計画I, 各種建物・地域施設, 設計方法, 構法計画, 人間工学, 計画基礎 999-1000 2001年7月
MISC
51-
室井尚/情報宇宙 62-63 2023年6月
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態度と呼応のためのプラクティスno.2 エコーの極点 2023年5月 筆頭著者
-
2023年3月
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美術手帖 75(1096) 48-53 2023年1月
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ユリイカ 54(14) 94-98 2022年12月
-
図書新聞 2022年10月15日
-
2022年3月26日 招待有り
-
現代の眼 636 12-13 2022年3月 招待有り
-
京都新聞 2022年2月26日 招待有り
-
京都新聞 2022年1月22日 招待有り
-
京都新聞 2021年12月18日 招待有り
-
京都新聞 2021年11月27日 招待有り
-
24-24 2021年9月25日 招待有り
-
2021年8月28日 招待有り
-
京都新聞 24 2021年7月24日 招待有り
-
京都新聞 24 2021年6月26日 招待有り
-
京都新聞 24 2021年5月22日 招待有り
-
京都新聞 24 2021年4月24日 招待有り
-
日本の点字 (45) 2021年3月
講演・口頭発表等
25-
2024年9月18日 株式会社precog
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アブソリュート・チェアーズ 現代美術のなかの椅子なるもの 2024年9月8日 愛知県美術館
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アートと障害を考えるネットワークフォーラム 2023年11月3日 滋賀県立美術館
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つなぐを考える 百瀬文『聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと』を手がかりに 2023年3月19日 つなぐを考える実行委員会
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移民船科研+日文研安井・マルソー共同研究会合同学術セミナー「「旅する」感染症:近代日本におけるトラホームと移住」 2023年3月13日 招待有り
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国際日本文化研究センター 「身体イメージの想像と展開――医療・美術・民間信仰の狭間で」共同研究会 2021年1月9日
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あざみ野コンテンポラリーvol.11連携企画「あざみ野カレッジ」 2020年10月24日 公益財団法人 横浜市芸術文化振興財団 招待有り
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萌えいずる声 2020年2月9日 京都大学 大学院 人間・環境学研究科 岡田温司研究室 招待有り
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『危口統之一〇〇〇』出版記念トークイベント 2018年6月4日 代官山 蔦屋書店 招待有り
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手話で学ぶ手話学 2018年2月17日 群馬大学 招待有り
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京都大学バリアフリーシンポジウム2017 -創って、操って、奏でる「理のバリアフリー」 2017年9月10日 招待有り
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日本盲教育史研究会 2016年6月5日 招待有り
-
東京都手話通訳者協会 2016年3月19日 東京都手話通訳者協会 招待有り
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2015年9月20日 日本特殊教育学会 第53回大会
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表象文化論学会 第8回研究発表集会 2013年11月9日
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飯山由貴個展「湯気 けむり 恩賜」(実家 JIKKA、東京都千代田区外神田) 2013年9月14日 招待有り
-
病と社会・環境・科学技術に関する近代史研究会(若手研究者研究力強化型プロジェクト) 2013年1月12日 病と社会・環境・科学技術に関する近代史研究会 (立命館大学生存学研究センター「若手研究者研究力強化型」) 招待有り
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表象文化論学会 第7回大会 2012年7月
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生物学史研究会 2012年3月 招待有り
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表象文化論学会研究集会 2010年11月
担当経験のある科目(授業)
5Works(作品等)
8-
2024年8月10日 - 2024年9月29日 芸術活動
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2024年8月10日 芸術活動
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2023年11月3日 芸術活動
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2023年5月27日 芸術活動
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2022年12月10日 芸術活動
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2022年11月5日 芸術活動
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2022年8月6日 芸術活動
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2013年1月17日 芸術活動
共同研究・競争的資金等の研究課題
10-
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C) 2023年4月 - 2028年3月
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住総研 研究助成 2020年6月 - 2022年10月
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公益財団法人トヨタ財団 個人研究助成 2014年5月 - 2017年11月
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財団せせらぎ 平成28年度第2四半期 助成金 2016年 - 2017年
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厚生労働省 平成26年度 老人保健健康増進等事業 2014年4月 - 2015年3月
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公益財団法人 交流協会 共同研究助成 2014年4月 - 2015年3月
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福武学術文化振興財団 歴史学・地理学助成 2011年4月 - 2012年3月
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日本科学協会 笹川科学研究助成(人文系) 2009年4月 - 2010年3月
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福武学術文化振興財団 歴史学・地理学助成 2008年4月 - 2009年3月
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独立行政法人福祉医療機構 高齢者・障害者福祉基金助成 2006年4月 - 2007年3月
学術貢献活動
1メディア報道
2-
東京新聞 東京新聞 2022年12月4日 新聞・雑誌
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朝日新聞 2007年11月15日 新聞・雑誌
社会貢献活動
2