急性呼吸促拍症候群(acute respiratory distress syndrome:以下、ARDS)は急速に進行する非心原性の急性炎症性肺障害である。ARDSの発症には先行する基礎疾患が必須であり、肺炎・敗血症・外傷・熱傷・中毒・自己免疫疾患など多岐にわたる。発症に好中球が深く関与していることはわかっているが、その発症のメカニズムは未解明な部分が多く、ARDSの病態が広く認知された現在でも確立された治療薬はない。2004年に発見されたneutrophil extracellular traps(以下、NETs)は活性化した好中球が能動的に放出する網目状の構造物で、好中球自身のDNAやヒストン蛋白および蛋白分解酵素が含まれている。好中球の自然免疫の新たな機構として研究が進められているが、NETsの放出には血小板や血管内皮など細胞間の緊密な相互作用があることが近年明らかとなっており、ARDSとの関連も注目されている。今後、NETsの制御が新たなARDSの治療のターゲットとなる可能性がある。本稿では、ARDS患者におけるNETs形成と臨床経過について自験例を含めて報告する。(著者抄録)