辻河 典子

　共産主義者ではないが社会主義に親和的だった者たちを主な対象に、ハンガリー語話者を中心とした戦間期中央ヨーロッパの政治家や知識人のネットワークを扱っています。博士論文ではウィーン・ベオグラード・パリを主な舞台として行われた1920年代のハンガリー系亡命者の政治活動を同時代のヨーロッパ政治の文脈の中に位置づけた議論を行い、2021年に単著にまとめました。こうした政治家や知識人の評価はハンガリー現代史をめぐる歴史認識においても主要なトピックの一つとなっているため、ハンガリーでの「歴史の政治化」についても博士課程の頃から考察を続けています。

　博士課程を終えた後は、パリを拠点に1898年から1940年まで活動した人権連盟Ligue des Droits de L'Hommeや社会主義運動とハンガリー系亡命者との関係に注目して研究を続ける傍ら、ナショナリズムと領域認識との結びつきの歴史的構築性の観点から、第一次世界大戦後にハンガリー旧領から流入した人々の定住過程や20世紀前半の中央・東ヨーロッパにおける地理学や民族学の展開にも取り組んできました。

　これらの研究の延長として現在は、第一次世界大戦後の国際関係が依然として不安定だった1919-20年のハンガリーをめぐる政治情勢と、体制転換以後のハンガリーにおける歴史認識の展開について研究を進めています。