鶴田 裕貴

　1890年代から1910年代ごろにかけての米国における新聞コミック・ストリップ（コマ割りマンガ）について研究しています。
　いまや日本でもマンガの表現形式として自明なものになっているコマ割りや吹き出しといった要素ですが、それらが確立されたのは世紀転換期のアメリカにおいてでした。初期米国コミックスは戦前の日本マンガに対しても大きな影響を与えており、戦後マンガとも深く関係していますが、ほとんど知られていません。それどころか、マンガはしばしば日本文化としての固有性が強調され、ともすれば安易かつ誤解に基づいたかたちでナショナリズムに奉仕しかねないのが現状です。こうした状況を打破すべく、米国コミックスの歴史的・形式的特有性をえぐり出すこと、そうしてマンガ/コミックスの国際比較のための地盤を作ることが目標です。

　目下の課題は、初期の米国コミック・ストリップが同時代の文化的背景とどのような関係にあったのかを明らかにすることです。特に当時頻繁に登場していた移民のキャラクターに注目し、彼らを表象する際にコミック・ストリップの表現形式がどのような効果を発揮していたのか、またその効果が文化的背景の中でいかなる意味を有していたのかを考えています。

　加えて、こうした歴史的研究が現代のマンガやコミックスの読み方に新たな視座を与えるのではないか、という考えのもと、マンガを批評する手法についても考えています。