MISC

2013年

インド・デリー首都圏における牛乳供給システム

日本地理学会発表要旨集
  • 梅田 克樹

2013
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159
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159
DOI
10.14866/ajg.2013s.0_159
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

Ⅰ はじめに インドは世界最大の酪農国である。3億頭におよぶ牛や水牛から、年間1.2億tもの生乳が生産されている。特に、デリー首都圏の周辺には、インド有数の酪農地域が広がっている。本報告では、インド酪農の最新動向について整理するとともに、生乳流通の地域的多様性について概観する。また、世界第4位の都市圏人口(2,224万人)を擁し、インド最大のメガ・リージョンであるデリー首都圏を事例に、生乳供給システムの現状と課題を明らかにする。Ⅱ 高度経済成長とインド酪農の発展 1980年代後半以降、インドは急速な経済成長を遂げてきた。とりわけ、可処分所得20万ルピー(約30万円)をこえる中間層人口の急増が、需要拡大に与えたインパクトは大きい。生乳生産についても、2005年から2011年までの間に生産量が3割増えるなど、需要拡大を受けた積極的な増産が図られている。しかし、同期間の乳価上昇率は5割に達している。増産ペースを上回る勢いで需要が増え続けているため、生乳需給は今後ますます逼迫するものと見込まれている。2020年の需給ギャップ(供給不足量)は、5,000万tに達するとの予測もある。 インド国民の8割はヒンドゥー教徒である。ヒンドゥー教において牛は神聖な生き物とされており、ベジタリアンも数多い。そのため食肉消費量は少なく、畜産生産額の7割を乳が占めている。ギーやダーヒなどの伝統的乳製品も広く食されている。こうした強固な乳食文化を支える酪農部門は、インドにおける農業生産額の2割を占め、穀物に次ぐ基幹的部門をなしているのである。その一方、牛乳の7割に、不純物が含まれていたり混入物が加えられていたりするなど、品質向上に向けた課題も多く残されている。Ⅲ 生乳生産の地域的偏在とその要因 酪農がさかんなのは北部諸州である。生乳生産量が最も多いのはウッタル・プラデーシュ州(2,100万t)であり、その量はニュージーランド一国の生乳生産量に匹敵する。そのほか、ラジャスタン州(2位、1,320t)やパンジャブ州(3位、940t)、ハリヤーナ州(10位、630t)なども、上位に顔を出している。デリー首都圏を取り囲むように、酪農主産地が分布しているのである。逆に、東部諸州の生乳生産量は少なく、深刻な生乳不足にしばしば陥りがちである。 生乳生産の地域的偏在が生じる最大の理由は、気候条件の違いにある。降水量が少ない地域では草が成長しにくく、飼料調達に支障が出る。一年中高温多湿が続く地域では牛が弱ってしまうし、交雑種を導入することも難しい。欧米からの輸入牛との交雑種は、年間乳量が1,000~2,000㎏とインド在来牛(300~600㎏)に比べて多いものの、耐暑性が大きく劣るのである。その点、明確な冬があり適度な降水も得られる北部諸州ならば、草地資源も豊かであるし、交雑種を導入することも容易である。 そのほか、冷蔵輸送システムが整えられていないことや、種雄牛の導入状況が州によって異なることも、地域的偏在を生じさせる副次的要因として挙げられる。Ⅳ 生乳生産の地域的偏在とその要因 インドの牛乳流通において、organized milkが占める割合は18%にすぎない。自家消費や伝統的流通などのインフォーマル流通が卓越するものの、その全容はほとんど解明されていない。しかし、インド経済の中枢を担う大都市については、やや事情が異なる。デリー首都圏においては、Delhi Milk Scheme (DMS)に基づく流通システムが整えられ、毎日380万リットルものpackaged milkが消費者に届けられている。連邦政府農業省内に事務局を置くDMSが、近隣州の酪農連合会や酪農協などから買い取った生乳を、各乳業者に一元的に販売するのである。デリー市民に牛乳・乳製品を安価に供給するとともに、生乳生産者に対して有利な乳価を確保するための制度である。DMSは、Operation Flood (OF)に基づいて1959年に策定された枠組みである。DMSにおける主な生乳調達源もまた、OFに基づいて普及が図られてきた協同組合酪農である。OF推進のためにNDDB(インド酪農開発委員会)が設けられ、アナンド型酪農協を普及させてきた。アナンド型酪農協の集乳率は8%程度と高くないとはいえ、インド農村の社会経済開発モデルとしての意味は大きい。また、DMSの生乳販売先の多くは、NDDBの傘下におかれている。NDDBが100%出資するMother Dairy社は、DMSによる生乳販売量の66%を占めており、デリー市乳市場における支配力を確保している。デリー大都市圏内に1,000カ所の専売ブースと1,400カ所の契約小売店を設け、牛乳・乳製品をはじめとする多種多様な食品を販売している同社は、インド大都市部において構築すべき安価かつ安定的な食料供給システムの国家的モデルと位置付けられている。こうしたモデルが普及すれば、インドの酪農・乳業が大きな変革を遂げる可能性があるだろう。

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DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2013s.0_159
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005473140

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