MISC

2014年

第3次フードレジームとアジア太平洋地域の農産物貿易

日本地理学会発表要旨集
  • 荒木 一視
  • ,
  • 梅田 克樹
  • ,
  • 大呂 興平
  • ,
  • 古関 喜之
  • ,
  • 辻村 英之
  • ,
  • 則藤 孝志

2014
0
開始ページ
100039
終了ページ
100039
DOI
10.14866/ajg.2014s.0_100039
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

報告者らはフードレジーム論の枠組みを念頭に,アジア太平洋地域で新たに形成されつつある農産物貿易を実証的に把握することに取り組んだ。世界大の多国間のスケールで食料供給体制を描き出そうとするフードレジーム論においては,アメリカのIndustrial Agricultureに依拠した大量の食料の安価な供給体制(第2次レジーム)がほころびを見せ始めていると認識される。それに代わるとされるのが第3次レジームと呼ばれるもので,国家ではなく多国籍企業がそれを稼働させ,安価で大量の食料供給という従前の哲学ではなく,品質や社会的な価値などへの関心が高い。 フードレジーム論においてアジア太平洋地域が主要な対象となることはなかったが,今日突出した食料輸入国である日本,経済成長とともに巨大な食料消費国としての性格を急速に強めつつある中国及び東南アジア諸国,またこれらアジア市場への食料輸出基地としての性格を強めつつあるオーストラリアやニュージーランドなどのオセアニア諸国などは急速な秩序変化の中にあるといってよい。こうした状況を理解する上で第3次レジームの枠組みが効果的ではないかと考えたのである。<br>報告者らの取り上げたアジア太平洋地域の農産物貿易の事例は以下の通りである。東アジアのスケールでは中国・台湾・日本を結ぶ青果物や加工食品のチェーン,さらにオセアニアを含むスケールでは畜産品のチェーンに着目した。加工食品(梅干)の場合,①日本の加工業者が主導する台湾からの調達(日本の開発輸入),②台湾企業が主導する中国からの調達(台湾加工業の中国進出,消費市場は日本),③日本の加工業者による中国進出,④市場の変化に伴う縮小・撤退という動きが認められた。また,畜産品(牛肉)の場合には,①日本企業のオーストラリア進出と調達,②日本企業の撤退とオーストラリアでのWagyu生産,③東南アジア市場を目指したオーストラリアからのWagyu輸出,畜産品(乳製品)の場合には,ニュージーランド企業による中国市場向けの輸出とオーストラリアからの原料調達などの動きが認められた。このようにアジア太平洋地域の農産物貿易は単純な2国間の枠組みでは把握できないパターンを示しているとともに,それらの背景には従来のより廉価な食品供給という考え方だけではなく,安全性や安心感,さらには食品が持つ文化的・社会的なさまざまの価値の獲得を目指した動きが存在している。例えば,より高品質・高級とされる食材,より安全性を保証された食材,さらにはより環境に与える負荷の少ないとされる食材やよりエキゾチックな,あるいは「ブランド」化された食材への関心の高まりである。これらの動きは一方で経済成長による市場の拡大として理解することができるが,他方では市場そのものが従来の廉価で大量の食料供給をよしとする枠組み・基範から,より質的なものを重視するものへと市場の性格が変化してきたととらえることもできる。<br> このようにアジア太平洋地域の農産物貿易は極めて興味深い動きの中にあるといってよい。次のステップとしてはこうした動きをどのように評価しうるのか,さらにいえばこれらのフードチェーンはどのようにあるべきかという議論が想定できる。品質や安全性などへの関心が高まること自体悪いことではない。また,新たな市場の形成や成長,より付加価値の高い農産物・食品の登場についても同じである。しかし,はたしてそうした動きが新たな食料供給体制(レジーム)を構築しうるのであろうか。廉価で大量の食料供給という1つのパラダイムが幕を下ろすといえるのであろうか。豊かな先進国と貧しい途上国という枠を超え,先進国途上国を問わず,一国の中での貧富の差が広がっている。そこにおいて彼ら(富めるものと貧しいもの)の食料供給を支えるのは,もはや国内の食料生産ではなく,いずれの国においても海外からの調達となりつつある。この文脈にいて,なお廉価で大量の食料供給というパラダイムは意味を持っていると考える。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2014s.0_100039
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005473679

エクスポート
BibTeX RIS