講演・口頭発表等

2017年

インド・カルナータカ州における「商業的酪農」の勃興と乳牛改良

日本地理学会発表要旨集
  • 梅田 克樹

開催年月日
2017年 - 2017年
記述言語
日本語
会議種別
主催者
公益社団法人 日本地理学会

Ⅰ はじめに<br>インドの酪農は、約8,000万戸の零細酪農経営によって支えられ、持続的な農村開発に貢献してきた。その一方、資金力が乏しい零細経営ゆえに、生産性の向上が十分に図られてきたとは言いがたい。低疾病・高乳量牛への改良とその普及が、喫緊の課題になっている。近年は、数十頭の飼養規模を有する商業的酪農も出現し始めている。本発表では、インド酪農に大きな変革をもたらすであろう乳牛改良の進捗と商業的酪農の勃興について、カルナータカ州の現状を報告する。<br> <br>Ⅱ 乳牛改良の意義とその地域性<br>宗教的・文化的理由から食肉消費が少なく、動物性タンパクの摂取源として牛乳・乳製品が担う役割は極めて大きい。そのため、近年の急速な経済成長に伴って、生乳需給の逼迫が恒常化するようになった。<br>生乳需給の逼迫を招いている供給サイドの問題として、①在来牛の低い産乳能力、②高い育成牛死亡率、③低い搾乳牛比率、④長い乾乳期間が挙げられる。乳牛改良の加速化とその成果普及の促進は、こうした諸問題を解決するための特効薬と位置付けられる。第12~13次五カ年計画に対応して策定されたNational Dairy Plan(NDP, 2012~21年度)において、優良種畜の導入と人工授精(AI)技術の普及は、インド酪農が取り組むべき最重点課題に据えられた。2012~16年度におけるNDP予算の48%が、乳牛改良関連の諸事業に充てられている。<br>インドの在来牛(コブ牛)は、牛体が小さく暑さや病気には強いものの、年間乳量は300~600kg程度にとどまる。牛体が大きいヨーロッパ牛は、年間乳量は5,000~10,000kgに達するものの、高温や疾病には弱い。そこで、両者を交配することによって、熱帯性の気候に適応しながら年間1,500~2,000kgの産乳能力を備えた牛(交雑牛)が作り出される。ただし、高温多湿な東インドにおいては、在来牛の選抜による乳牛改良が主流である。水牛が多い北部・西部諸州は、ゼブー種など高乳量在来種水牛の増頭を推進している。交雑種の導入に積極的に取り組み、体型・能力に優れた高能力牛群の構築に成功しているのは、北部の一部州(パンジャブ州など)と南部諸州に限られるのが現状である。<br>最も効果的な乳牛改良の方法は、優秀な種牡牛を選抜・導入することである。1頭の種牡牛によって年間2万回のAI実施が可能になるため、遺伝的能力が高く伝染性疾病のリスクが低い優良種畜を効率的に利用できる。凍結精液は保存性・可搬性に優れるため、遺伝資源を広域的に利用することも可能になる。また、雌牛の発情に合わせたAI実施は、妊娠確率の改善や空胎期間の短縮にも直結する。その一方、広範なAI普及を実現するための人材育成やインフラ整備は遅れがちであり、技術的問題に起因する繁殖成績の不安定化がしばしば生じている。<br>2014年度には、全国50か所の精液生産センターにおいて、年間8,855万本の凍結精液が製造された。総妊娠数の3分の1程度がAIによるものと推定される。さらに、NDP期間中に480頭の種牡牛(受精胚輸入を含む)を輸入するなどして、年間1億本分の精液供給能力を積み増す計画になっている。<br><br>Ⅲ カルナータカ州における乳牛改良と商業的酪農の勃興<br>カルナータカ州は、交雑種の普及が最も進んでいる州の一つである。特に、州都ベンガルールの周辺では、交雑種の比率が顕著に高い。それに対して、相当数の役牛が残存している北部では、在来種の比率が依然として高いままである。<br>州内5か所の精液生産センター(年産計878万本)は、すべてベンガルール市とその周辺に位置している。同市中心部の北西方18kmに位置するヘッサーガッタ村には、連邦政府の管轄下にあるCentral Frozen Semen Production and Training Instituteを含む3か所の精液生産センターと、連邦政府・州政府の畜産研究機関が集中する。ベンガルール市中心部には、National Dairy Research Institute (Southern Regional Station)が置かれている。<br>各精液生産センターや隣接する研究機関群は、酪農新技術の普及拠点になっている。酪農従事者のための宿泊研修施設も完備されており、「商業的酪農」のインキュベーターとして機能している。普及拠点へのアクセスに優れたヘッサーガッタ村周辺は、商業的畜産の集積がみられる。当日の発表では、ベンガルール市内の大手IT企業から転じた新規参入者が、ヨーロッパ式の酪農技術体系をNDRIで学び、ヘッサーガッタの隣村において「商業的酪農」の創設につなげた事例等を報告する予定である。また、CFSPTIにおける凍結精液の製造過程を検証し、対処すべき技術的諸課題についても明らかにしたい。

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DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2017s.0_100344