研究ブログ

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「ネット情報におぼれない学び方」(岩波ジュニア新書)執筆の背景と狙いについて『教育学術新聞』にご掲載いただきました。※画像の使用許諾済み

このたび、拙著「ネット情報におぼれない学び方」を岩波ジュニア新書から上梓しました。

https://www.iwanami.co.jp/book/b619889.html

本書の執筆の背景と狙いについて『教育学術新聞』にご掲載いただきましたので、紹介いたします。

※画像の使用許諾済み

この本は、大学図書館の司書としての経験を基に、初学者に向けた「調べ方」や「学び方」の入門書として書いたものである。本稿では、執筆の動機と狙いについてお伝えしたい。

この本の読者に学び取って欲しいのは、情報収集の知識・技術のみならず、「正答のない問い」に能動的に取り組み、社会に出てからも学び続けるための知的好奇心の大切さである。

主に中高生に向けた「岩波ジュニア新書」からの発刊だが、初めての課題レポートに挑む大学生にも役立つよう、研究やアウトプットの基礎的な方法も含めた内容とした。このような力は、将来どのような道に進むとしても、「独学者」として生涯にわたって必要となると考えたためである。

確かな情報を探して学び、自分の頭で考え、アイデアを発信する力(情報リテラシー)は、大学生にとって第一に身につけるべき力であろう。しかし、ネット時代は「それらしき情報」が安易に入手できることで、かえってこの力が育ちにくくなっていることを課題と捉えた。

せっかく授業で挑戦しがいのある課題を与えられても、ネットで拾った情報を切り貼りするぐらいしか「選択肢」や「発想の引き出し」を持たない大学生も多い。

このような課題研究の材料となる「本や論文を探すための知識や技術」の習熟度は、高校までの探究的学習などの経験による個人差も大きい。そうした能力の育成を受ける機会の差は、レポートの質や、論考の深さといった「大学での学びの成果」にも影響し、いずれは社会人としての能力の差にもつながってゆく。本書を「大学に入る少し前」の読者層を対象としたシリーズから出版した理由は、この機会の格差を危惧したためでもある。

これまでも、大学によって情報リテラシー教育の在り方は異なり、新入生向けの基礎ゼミや、情報検索講習等への力の入れ方には差があった。それに加えて、このたび未曾有のパンデミックである新型コロナウイルスの流行が、教育を受ける機会と能力の格差を広げてしまった。

感染拡大の初期、多くの大学はオンライン授業となり、学生はキャンパスに通えなくなった。特に2020年度の新入生は、レポート執筆の指導はおろか、図書館利用のガイダンスさえも受けられないまま、大学生活を始めることを余儀なくされた。高校までとは異なり、学際的かつ多面的な課題に取り組む際にも、教員への相談や、学友との議論が(対面では)できず、孤立して対処せざるを得なかった。

大学によっては、リモート学修を支援するさまざまな対策が取られた(図書館のデータベース紹介サイト開設・在宅レファレンス・資料の郵送など)。その一方で、先行研究調査の糸口さえもつかめない学生も多かった。

そこで筆者は2020年の4月、全国の大学生に向けて「図書館のリモート活用による情報収集法」を解説する資料と動画を作成し、公開した。

https://researchmap.jp/umetaka/

(「資料公開」→「在宅で学ぶ大学生と教職員のための情報収集法&大学図書館リモート活用法」→「詳細を表示」を開くと、資料のダウンロードが可能。60分間の説明動画もある。)

筆者は大学図書館の司書として、情報リテラシー教育のほか「電子図書館化」にも携わってきた。それは、自宅からでも海外からでもオンラインで図書館にアクセスし、大学が契約したデータベースを利用して学術雑誌論文などの情報資源を自由に活用できる仕組みである。電子図書館化は20年以上前から進められて来たが、本や雑誌のように目に見えて手に取れるものではないため、そもそも認識・利用されること自体が課題であった。ところが皮肉にもコロナ禍によって、「リモートでどれほどの情報を収集できるか」が、その大学と図書館の価値として重要になった。

そこで、公開した資料と動画では、まず冒頭で「有料情報も利用可能な大学生の特権的な立場」の有利さを強調した。その上で、あえて「①本学に限らず全ての大学生」に向けて、「②無料でも信頼できる情報ならば広く取り扱う」ことを意識した。それは、単に「所属大学の図書館利用スキル」を学ぶのが目的ではなく、本書の執筆動機としても触れたように、「将来にわたる独学者」の育成が本質と捉えたためである。

場所を選ばす、世界のどこにいても豊富な学術情報を集められるのは、大学生の特権である。しかし電子図書館化を進めるほど、大学図書館の重要な評価基準である「来館者数」や「貸出冊数」が減ってしまうというジレンマもあった。この問題については、『大学図書館』103 巻11号(2009年)に「大学図書館職員の教育研究支援能力--米国大学図書館協会の基準に学ぶ、職員と成果の評価による改善策」として寄稿したので、ご高覧いただきたい。

これまで、学術雑誌論文など世界最先端の情報を得るには、高額な対価が必要であった。しかし近年はオープンアクセス化が進み、必ずしも有料とは限らず、また所属大学の予算や、図書館という場といった要因にも囚われず、入手がしやすくなっている。さらに言えば、ネット情報は玉石混交ではあるものの、有用なものも多い。その価値を見極めて使いこなす力を身につけることができれば、本や図書館などの「王道の学び方」に加えて、まさに「鬼に金棒」となろう。

公開した資料と動画には大きな反応があり、特に「この内容を高校までに知っていれば、もっと充実した学修ができたはずだった」という感想が多かった。そこで筆者は、より早期に課題研究に取り組めるよう、高校生向けの資料と動画も作成・公開した(先述と同じリンク先)。

さらに、誰でもオンラインで読める入門書(読み物)として「ネット情報の海に溺れないための学び方入門」を作り、これも無料で公開した。
(https://note.com/umezawatakanori/n/n8b3ddc4da2e1)

その章立ては、「『ネットで何でも分かる』時代に、なぜ学ぶのか?」に始まり、「なぜ読書や図書館が必要なのか?」という疑問に答えた上で、本や雑誌、事典と辞書、統計情報等の探し方と使い方を説明し、レファレンスを軸に図書館と司書が調べごとの心強い味方となることを紹介した上で、最後に「『学ぶ』知識から『使う』教養へ」として、アウトプットの意義と方法を伝えるものである。これに大幅な加筆をしたものが、このたび上梓した書籍である。

なお本書では、大学や社会での課題に取り組むにあたって「高校までの学校教育で得た知識・技能」を極めて重視している。独創性はその基礎の上に成り立ち、それぞれの興味関心に応じた自由闊達な学びと組み合わさって、初めて有用で新規性のあるアイデアが生まれることを、全章を貫いて訴えている。それは、筆者の高校時代をふり返っての自省による、読者へのメッセージである。やはり教科書の知識は、考え抜いて工夫し尽くされた、先人達からの宝箱のような贈り物であったことを痛感しているためである。

(以下、「はじめに」より)
 この本の第一の目的は、「確かな情報源を探す方法」を学ぶことです。それは「ネットだけでなんでも分かる」という思い込みを解き、本や図書館なども使った「王道の学び方」を身につけることでもあります。
 もう一つの目的は、確かな情報を集め、自分ならではのテーマを探究していく面白さを知ることです。それができるようになれば、これからの人生で出会うさまざまな困難や課題を解決し、乗り越えていけるはずです。

読者のみなさんが、人生100 年と言われる時代を、知的好奇心を持って豊かに生きるために、この本が役立つことを願っています。

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