研究ブログ

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これからの研究計画

 2ヶ月前に日本学術振興会の「科学研究費助成制度」に申請した研究課題が採択されました。今後の研究の紹介も兼ねて、この研究課題の内容についてちょっと紹介してみたいと思います。そのまま内容を申請書から引用します。



(研究テーマ)
「法的判断における真理概念の適用とその帰結」

(研究目的)

 「本研究では、法哲学の根本問題の一つである「法的判断に真理概念が適用できるか」という研究テーマを追究する。これまでの研究における重要人物としてとりあげた哲学者のD.ウィギンズは、価値判断の妥当性の問題と真理概念の問題との密接な関連性を論じている。しかし両者の関係をこれまでの研究の中では明らかにしておらず、この問題を法的判断の問題に接続することで、法的判断と真理概念の繋がりを考察する。

 さらに、私が提唱する真理と法的判断の密接な関連性は、法テクスト解釈の問題、さらには熟議民主主義のような問題などにもつながる可能性があり、そのような実践的トピックへの接続も図る。

(研究の概要)

 「法的判断に真理概念が適用できるか」という問題はいかにも抽象的な問題で、雲をつかむ話のように思えるかもしれない。しかしながら、これは法実践を含めた社会全体の実践に影響を及ぼす問題だと申請者は考えており、その重要性はC・ミザクという哲学者も指摘している。彼女は今日の社会哲学では真理概念が政治や道徳には適用できないという考えが支配的であると指摘する。彼女によれば、現状の民主主義体制を他の政治体制よりも優先する政治哲学的立場であっても、民主主義体制そのものを正当化するのではなく、手続き的な有効性で優位性を確保しようとしているとされる。そして真理概念が仮に政治に適用可能であれば、何らかの政治体制を哲学的に正当化することが可能になり、彼女はその帰結として「熟議民主主義」(またはパーシアン・デモクラシー)の体制を擁護する。

 この議論を法実践に応用するのであれば、現状の法学領域の考えでは法的判断に真理概念は適用できないという発想が支配的であり、法的判断の妥当性は手続き的な有効性に置き換えられることが多い。しかし仮に法的判断に真理概念が適用できるのであれば、法的判断に単なる手続き的な有効性以上の哲学的正当化が可能になり、実質的な法的判断の内容も変動する可能性があると申請者は予測する。本研究では「法的判断に真理概念が適用できるか」という理論的問題に迫ると共に、その真理の問題の実践的帰結の例示として、真理概念意味論を経由した法テクスト解釈の問題、そして前述したミザクが提起する熟議民主主義の問題にも迫る。



 というわけで、法哲学・政治哲学・真理論・メタ倫理学を横断する射程の広い研究になるはずで、それらをまとめるのが一苦労なのですが、とりあえず議論の足がかりとして、現在は、ミザクの民主主義論と真理論の関係について研究を進めています。ミザクの議論については、3月に出した論文(「プラグマティズムと政府」『政府と政治理論』菊池理夫他編、晃洋書房、2017年)で軽く触れていますので、ご興味のある方はご参照ください。本格的な検討はこれからの作業で、口頭での研究報告を7月の東京法哲学研究会と11月の日本法哲学会を予定しています。正式な案内が出された時にまたこちらでお知らせしますので、よろしくお願いします。

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