2021年4月 - 2026年3月
唐代史研究史料としての『新唐書』志の研究
日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究
本研究課題は、中国に関する歴史学の分野で史料として習慣的に用いられてきた正史のうち、特に唐代を研究するにあたり重要な文献である『新唐書』に着目し、その史料的価値を再検討して、『新唐書』の編纂・記述が唐代史研究に与えてきた影響を明らかにしようとするものである。『新唐書』は唐朝が滅びたのち、宋代になって編纂された紀伝体の書物であり、本紀・志・表・列伝の4部に分かれるが、本研究では主に志の部分に着目して分析を加えている。志の部分は、『新唐書』の志が『旧唐書』というさきがけて成立していた歴史書をベースにしつつも、分量をかなり増やして再編纂していることが知られており、また、その過程で編纂者が〈まとめ〉をおこなう際に、自らの認識をテキストに表現している可能性が高いと推測されるからである。
研究課題の初年度では、志のうち、とりわけ「地理志」と「兵志」に着目し、綿密な検討を加えた。特に「地理志」の分析においては、「地理志」中の複数個所において後世の宋代の編纂者による恣意的な編纂の痕跡が明確に認められ、そうした部分を唐代史研究の根拠として用いてはならないことが明らかとなった。とりわけ、「地理志」中に見られる「羈縻」という語は、従来の唐代史研究において重要な意味をもつ表現であったが、『新唐書』中では編纂者の思考が影響しており、本来の唐代当時の用法と『新唐書』成立以後とにずれが生じていることが明らかになったと考えられる。このことは、『唐帝国の統治体制と羈縻―『新唐書』の再検討を手掛かりに―』(山川出版社、2022)においても言及することができた。「兵志」については次年度も作業を継続する。
また、この「地理志」に見いだせる宋代編纂者の誤解(ないしは意図的な改変)を含む記述は、『新唐書』成立以降のほかの多くの文献や、それらに基づいた思想にも影響を与えていることが予想される。次年度以降の分析課題としたい。
研究課題の初年度では、志のうち、とりわけ「地理志」と「兵志」に着目し、綿密な検討を加えた。特に「地理志」の分析においては、「地理志」中の複数個所において後世の宋代の編纂者による恣意的な編纂の痕跡が明確に認められ、そうした部分を唐代史研究の根拠として用いてはならないことが明らかとなった。とりわけ、「地理志」中に見られる「羈縻」という語は、従来の唐代史研究において重要な意味をもつ表現であったが、『新唐書』中では編纂者の思考が影響しており、本来の唐代当時の用法と『新唐書』成立以後とにずれが生じていることが明らかになったと考えられる。このことは、『唐帝国の統治体制と羈縻―『新唐書』の再検討を手掛かりに―』(山川出版社、2022)においても言及することができた。「兵志」については次年度も作業を継続する。
また、この「地理志」に見いだせる宋代編纂者の誤解(ないしは意図的な改変)を含む記述は、『新唐書』成立以降のほかの多くの文献や、それらに基づいた思想にも影響を与えていることが予想される。次年度以降の分析課題としたい。
- ID情報
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- 課題番号 : 21K13119
- 体系的課題番号 : JP21K13119