共同研究・競争的資金等の研究課題

1992年 - 1993年

下部熱圏の大気潮汐波の結合過程の日・豪・加共同研究

日本学術振興会  科学研究費助成事業 国際学術研究  国際学術研究

課題番号
04044083
体系的課題番号
JP04044083
配分額
(総額)
7,200,000円
(直接経費)
7,200,000円

本研究は、中性大気(高度100km以下)と電離大気(100km以上)の上下結合の中でも近年とくに重要とされて来た大気潮汐波の働きを取り上げ、レーダーによる中間圏・下部熱圏(70-110km)の領域で観測や、下層の励起源の観測を日・豪・加の三国の協同で行うことにより地球規模的視野から大気潮汐波による結合の過程を探るものである。
研究は、京都大学が1985年から定期的に観測を続けているMUレーダーと、カナダのサスカチュワン大学、オーストラリアのアデレイド大学が近年高時間分解能の観測を成功させたMFレーダーでの観測を用い、その結果を比較することによって進められた。また、これらの他レイリーライダーやラジオゾンデの観測結果も検討し、下層での大気潮汐波の励起源に関する考察も行なって、総合的に大気潮汐波を捉えようとした。
1.異種レーダー観測技術間データ比較法の検討 本研究で用いるMFレーダー、MUレーダー(MSTレーダーの一種)は、その空間、時間分解能や観測可能高度、時間などが異なるため、その観測結果の定量的な比較には充分な注意が必要である。本研究では、日・豪・加それぞれでのこれまで観測をもとに重力波や大気潮汐波などの大気波動や乱流の振る舞いを充分検討し、解析を行う上での解析手法の選定やその影響、そして残りうる観測法の違いの要因を分析し、定量的なエネルギーの比較ができるように解析、比較手法を確立した。また、ライダーやラジオゾンデなどの観測との比較検討の方法も議論した。
2.協同観測の実施 前項の検討の結果から特に大気波動のエネルギーや伝搬方向などの気候学的な見地からの定量的な比較の上では、これまで各地点のレーダーで定常観測された豊富な観測データを上記で求めた比較法で比較することが、統計的にもより有意な結果が得られる事が判った。しかし、一方で大気潮汐波と相互作用すると考えられている波動にはプラネタリ波のようなグローバルなスケールの波動もあるため、このような波動を捉えるため各地点での同時観測すなわち協同観測が重要であり、また、重力波などのより局所的な波動の励起を探る上でも協同観測は有益であるとの見地から、日・豪・加間でレーダーの1週間から3週間の協同観測を4回に亘り行なった。この結果、各観測地点で同一のグローバルなプラネタリ波と見られる周期44時間、48時間などの強い波動を観測することができた。現在解析が進められているが、他のレーダー観測とも照合し、地球規模的構造や潮汐との相互作用の研究が進展すると期待される。
3.これまでの蓄積データの比較 前々項の検討結果を受け、3ヶ国の各レーダー観測の豊富なデータベースを活用し、大気波動の比較解析を行なった。その結果これまではその周波数広がり故、詳細な比較ができなかった大気重力波のエネルギーや伝搬方向の詳細な比較に成功した。すなわち、緯度が35°の共役点である京都とアデレイドではそのエネルギー変化はほとんどなく、また高緯度のサスカツーンではやや弱くなっていた。このような緯度分布は大気潮汐波のこれまでの観測結果に見られる南北半球非対称性からの推測と大きく異なるものである。また、潮汐波の観測結果からは、特に1日周期潮汐の複雑な年々変化が観測されており、とくに伝搬性潮汐波の強くなる赤道域や低緯度での観測を行うことが重要であることが示された。また、プラネタリ波に関しては約2日周期のものが強く、それ以外のものとのエネルギー差が大きいことが示された。
4.下層の励起源の協同観測 以上のような潮汐波の励起源の一つとして重要な下層大気による励起についてオーストラリア各地のゾンデ、風速プロファイラなどを用いた協同観測から、特に低緯度域での対流、積雲などの活動の日変化が上方へ伝搬する大気潮汐波の大きな励起源になっている可能性が指摘され、今度赤道域での下層大気の高時間分解能観測が重要であることを示した。
5.まとめ 以上のように、本研究課題では、日・豪・加三国の研究者の相互交流により、それぞれの持つレーダーのデータを有効に利用して比較検討が進展し、大気潮汐波の結合過程に関する多くの知見が得られた。また、今後赤道域を含めた協同観測が重要であることが示された。

リンク情報
KAKEN
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-04044083
ID情報
  • 課題番号 : 04044083
  • 体系的課題番号 : JP04044083