基本情報

所属
国立研究開発法人物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター 材料設計分野 材料モデリンググループ 主任研究員
筑波大学 理工情報生命学術院 数理物質科学研究群 国際マテリアルズイノベーション学位プログラム 准教授
特定国立研究開発法人理化学研究所 革新知能統合研究センター(理研AIP) 客員研究員
学位
博士(工学)(2009年3月 東京大学)

研究者番号
00553760
ORCID ID
 https://orcid.org/0000-0002-8905-2995
J-GLOBAL ID
201901005518643751
researchmap会員ID
B000366537

外部リンク

材料科学の世界を俯瞰してわかりやすくしたい。

そんな思いで、Materials Informatics(MI)のためのオープンデータベース「Starrydata」を作っています。

私は大学の授業を受けながら、よくこんなことを考えていました。「なんでこの授業はこんな難しいんだろう。もっと直観的に理解できる方法はないのかなぁ。」研究者になって、無機材料科学の最先端の研究に関わるようになってもずっとそうでした。難しい概念を直観的に理解できる方法を見つければ、脳に余裕ができるので新しいアイディアが生まれる。理解が難しければ、優秀な一握りの研究者しか研究ができない。でも理解が簡単になれば、幅広い分野の研究者が簡単に研究できるようになって、アイディアが集まり課題解決につながる。そうやって研究分野全体を加速して、社会や地球環境の課題を新材料で解決できれば、世の中から研究を支援いただいてきた恩も返せる。だから材料科学のわかりにくさをひとつずつ解決してわかりやすくしたい。そんな考えで、ここまで研究に取り組んできた気がします。

研究者としての自分の心が大きく揺らいだのは2014年でした。嘘としか思えない科学的仮説が世間に熱く応援され、正しいとしか思えなかった周囲の研究者が世間に悪人のごとく裁かれるのを、インターネット越しに見て傷つきました。自分の研究や意見を大勢の方に理解してもらって応援していただくには、どんな考えで研究に臨み、どんな言葉で伝えないといけないかを深く考えました。結論は「職業本来の目的に忠実であること」が大事であり、上の人の指示や目先の地位・名声・評価ではなく、自分が心から本当に必要だと考えた研究を、嘘を挟むことなく論理的に完成した形で行うことだと思いました。そして皆を幸せにできるなら自分が前に出て行動してもよくて、そのためなら自分が持つ権限と能力を戦略的に使っても構わないと学びました。それは、人にどう思われるかを気にして悩んでばかりだった自分が、そのシミュレーション能力を未来の「IF」の計算に使うことで、実現不可能だと思われがちなプロジェクトでも実現の道筋を見つけられるという気づきでもありました。

そうして考え抜いて2015年に私が立ち上げたのが、過去の論文から実験データを集める「Starrydataプロジェクト」でした。データ科学を材料科学に応用する「Materials Informatics (MI)」という新しい研究分野において、世界中の研究者に役立つ新しいオープンデータベースを作る研究です。初めは予算もほとんどなかった中、目標を共有できる仲間をひとりずつ集めていき、競争的研究費や企業共同研究などの支援を受けながら、世界最大の熱電材料の実験データのデータベースを育てることができました。この活動を少しずつ他の材料科学分野に広げていって、データ収集プロセスも少しずつ効率化していくことで、最終的には材料科学全体の実験データをデータベース化したいと考えています。

研究経歴

1. MgB2超伝導体の臨界電流密度の研究

私が学生のときに初めて関わった研究は、MgB2という超伝導体で電線(線材)を作る際に、どう作れば流せる電流(臨界電流密度)を増やせるかを調べる応用研究でした。当時、MgB2は発見されてから2年しか経っていませんでしたが、物凄い数の特性改善手法の論文が出ていました。その中で、私はそれらの結果の根底にある普遍的な法則を見つけたいと思いました。そのために、原料ホウ素粉末、熱処理温度、熱処理時間、Mg:B比を変えて無添加のMgB2試料をたくさん合成しました。そして走査型電子顕微鏡(SEM)でたくさんの写真を撮って地道に解析することで、特性が良くなる条件を論文にまとめました。結果は、当時の研究者が予想していた通り「粒界がピンニングセンターであり、粒径を小さくするほど特性が良くなること」を証明しただけでした。ハイインパクトな論文にもなりませんでした。けれども私が整理してまとめた特性改善手段は、その後MgB2の研究をした学生さんたちには役に立ったようでした。当時の指導教官には20年近く経ってから今も私の論文を引用している旨を伝えていただき、当時の私について「いい仕事するんだよ」と言っていただきました。

2. 新物質探索の研究

根性でMgB2を調べ尽くした研究も楽しかったのですが、もっとハイリスク・ハイリターンな研究をやりたいという思いもありました。そこで修士2年から取り組んだのが、新規ホウ化物超伝導体探索の研究でした。ホウ素の化合物は複雑で興味深い結晶構造をしているので、MgB2よりも優れた超伝導体が眠っているかもしれないと考えました。

先輩のいない研究テーマだったので、研究方法はすべて自分で設計しないといけませんでした。「何をすればいいかわからなくなった時は、とりあえず全部調べてみる」という自分の成功法則を頼りに、実験・文献調査・第一原理計算(独学)の3本柱で研究に取り組みました。既知の2元系ホウ化物を大量に合成して、SEMで写真をたくさん撮ることで、金属元素によって2種類の異なる反応機構があることを見出しました。さまざまな金属ホウ化物の結晶構造をアプリでぐるぐる回して観察することで、構成元素と局所結晶構造の関係についていくつかの法則を見つけてまとめました。過去にホウ化物が見つかった元素の組み合わせを手作業でマップにまとめることで、新規ホウ化物ができそうな元素の組み合わせを探しました。その結果に基づいて合成実験を行った結果、Ca1+εCo4B4, Ca1+εRu4B4などの新規ホウ化物を発見できました。テーマの広さと図表の多さゆえに論文としてまとめきれず、博士論文で紹介しただけの研究も多いですが、論文の体裁に関する制約が少なくなってきた現在、改めて論文化してもいいかなと考えています。

なお新規超伝導体を発見したいという夢は、私自身は叶えられませんでした。電子構造から新規超伝導体候補だと考えたKB6の合成・測定も実現しましたが、私の方法では超伝導は観測できませんでした。けれども同じ研究室の先輩や後輩たちが、他にいろいろな新規超伝導体を発見してくれました。私はそれらの試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで、原子配列の写真を撮って、結晶構造の決定に協力しておりました。

この博士課程での新物質探索研究は、10年の時を経てJST-CRESTの共同研究プロジェクトに生まれ変わりました。私が研究代表者となり(助教でCRESTの研究代表者を務めるのは異例だと言われました)、共同研究者たちの多大な協力を得て、MIを生かした新物質探索実験を行っています。結晶構造データベースの機械学習によって80枚の「化合物探索マップ」を作成していただき、そのマップで有望だと予測された元素の組み合わせで大規模合成実験を行うことで、解析しきれないほど多くの新物質が見つかりました。また結晶構造を局所構造に分解して考える研究を発展させて、結晶構造のドロネー四面体分割によって結晶構造を組み上げる新しいWebツール「結晶構造シミュレータ」の開発を行っています。

3. 新規熱電材料探索の研究

2009年にポスドク(基礎科学特別研究員)として着任した理研では、熱電材料の研究を委ねられました。最初は熱電材料に興味が持てなかった私は、知識がほとんどないことを逆手に取り、いろいろな熱電材料の第一原理計算を行って計算結果を比較してみることで、どんな電子構造の物質が熱電材料として有望なのか調べてみました。その結果を日本熱電学会で発表してみると、初心者なのに熱電材料理論のエキスパートかのように受け入れていただけました。そして学会誌編集委員や研究会委員、評議員や理事などいろいろな役職を与えていただき、解説記事の執筆機会や賞(論文賞・進歩賞)などもいただいたりして、私にとって最も関わりの深い学会となりました。

研究開始当初は第一原理計算と実験を並行して行い、熱電特性自動測定装置を2年かけて独自開発したりもしていましたが、研究室を異動するたびに実験が難しくなっていき、第一原理計算の研究がメインになりました。第一原理計算とボルツマン輸送方程式で熱電特性を予測する際の注意事項を論文にまとめたり、不純物ドープによって低い熱伝導率を達成できる物質の特徴を調査したり、第一原理計算だけではわからない電子緩和時間を実験データと合わせて求める研究などを行いました。

4. Materials Informatics(MI)の研究

東大で熱電材料の第一原理計算の研究をしていた私は、2015年7月に(国研)物質・材料研究機構(NIMS)で始まったMI2Iプロジェクトに、身分を東大に置いたまま参加させていただきました。当初は熱電材料の第一原理計算を求められたのですが、「それはもう外国でやっているから今から私ができることはない」と言って、「今必要なのは実験データのデータベースを作ることだ」と、勝手に新しいプロジェクトを始めてしまいました。MI2Iで知り合ったいろいろなデータベース研究者に話を聞き、論文からデータベースを作る構想を練り、実現のための予算をいただきました。日本熱電学会で知り合った学生(熊谷将也さん)に共同研究のオファーをして、Starrydata2 webシステムを開発していただきました。

プロジェクトは少しずつ大きくなり、NIMSの研究費のほか、理研AIPと外部資金の援助も得ることで、データ収集者と開発者を雇用して論文データ収集を進めてきました。外部資金としては、科研費(挑戦的萌芽、基盤C、新学術領域)、JST(CREST))、企業(6社)、企業連合(AICE)、財団(渡辺記念会)などの援助を受けてきました。完全自動AIを開発するのではなく、あえて人の手を介して論文データ収集を行うことで、正確性と情報量を両立したデータセットを作ることができました。熱電材料以外にも、磁石材料や基礎物性科学、準結晶や電池材料などさまざまな分野のデータを収集しています。こうして立ち上げたNIMSのデータ収集チームは年齢も研究経験もバラバラで、研究経験ゼロの方から企業を定年退職された歴戦の猛者までさまざまですが、毎週お互いの趣味の話を報告しながら、楽しく協力して研究しています。

データセットはStarrydata2 webシステムからのリンクで公開しています。また、データを集めるとできることを実演するために、データ解析や機械学習の研究も行っています。さらに、集めた熱電材料データをWebブラウザで検索・閲覧・解析できる「Starrydata Explorer」も無料で公開しています。

しかしMIの研究には、私が思いつく以外にもさまざまな解析のアイディアがあるのではないかと思います。そんな独自の解析法を探すこと自体が、MIという研究分野の特徴です。一つ言えることは、AIの分野は急速に発展していて、できないと思われていたことでもある日突然天才の手によって実現してしまうということです。画像生成AIやChatGPTが世界を不可逆に変えたように、私たちの集めたStarrydataのデータセットを使って、材料科学を効率化する圧倒的なAIを、誰かが開発してくれるのを待っています。そして人の役に立つ優れた材料が、効率よく開発できるようになることを期待しています。その際に私たちの論文を引用していただければ、私たちの地道な研究が、世界の材料科学に役に立てたと言えると考えています。

Webサイト / SNS

Starrydata HP

プロジェクト説明(日本語)

Starrydata2 web system

論文データ収集システム

Starrydata Explorer

論文データ検索・閲覧システム

STARRYDATA

プロジェクト説明(英語)

CREST NX

CRESTプロジェクトの説明

SAMURAI

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ORCID

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主要な論文

  63

主要なMISC

  28

書籍等出版物

  3

主要な講演・口頭発表等

  65

担当経験のある科目(授業)

  5

主要な共同研究・競争的資金等の研究課題

  11

メディア報道

  5