講演・口頭発表等

2016年

塩類風化による削剥量と風化環境との定量的関係:史跡・吉見百穴の凝灰岩の事例

地理要旨集
  • 有賀 夏希
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  • 青木 久
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  • 小口 千明
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  • 早川 裕弌

1.はじめに 埼玉県吉見町にある史跡・吉見百穴には, 地下軍需工場として利用された凝灰岩体を掘削した素掘りの坑道跡が存在する.先行研究によれば,その坑道内の壁面では塩類風化による岩屑の生産が進み, 壁面の削剥が起こることが報告されている.本研究では,塩類風化による削剥量と風化環境条件との定量的関係を明らかにし,削剥量の規定要因の解明を行うことを目的とした. 2.観測対象地点の選定・調査方法 坑道内には,約11年前まで温泉として用いられた風呂跡が存在する. 風呂跡周辺の壁面には,ノミによって削られた線が当時のまま残っているが,場所によっては塩類風化により削剥している箇所がみられる.風呂が営業停止し,坑内の環境が乾燥を始めた時から塩類風化が始まったと考えると,本調査地の壁面の削剥は11年間の風化・削剥作用の結果であるとみなすことができる.そこで坑道入り口付近から奥方に向かって壁面の削剥の程度が異なる壁面を5地点 (地点A~Eとした)選び,これらの地点の壁面削剥量を求めた.さらに壁面近傍においてデータロガーを設置し, 気温・湿度に関する連続観測と,壁面の微小削剥量,岩屑の崩落量,壁面表面の含水比・温度に関する1か月毎の定期観測を2015年1月1日から約1年間実施した.壁面温度 (地温とする)が気温と相関関係がみられたことから,気温の連続データを地温に変換した. 3.結果 各地点の壁面の削剥の程度の地点間の違いを述べると,地点A, B, Cは全て下部にノッチ状のくぼみがみられた.ノッチの上限高さは地点間で差があり,地点A,B,Cの順に高くなっていた.地点D・Eではノッチはみられなかった. 地温と湿度にも地点間の差異がみられ, とくに最高地温, 最低湿度で大きかった.本研究の観測により,各地点の含水比には大きな変動はなく,壁面の削剥量が大きい地点ほど地温が上昇し,湿度が低下しやすい環境であること,塩類風化によって生産される岩屑量は地温が上昇する時期と湿度が低下する時期に多いという結果が得られた. 4.考察 各地点の地温と湿度のデータを用いて,壁面の削剥量との関係を解析した.最高地温TWmaxと最低湿度RHminを用いて, 乾燥化指数α=TWmax/RHminを作成し,壁面における削剥の発生条件を考察した.αと含水比との関係から,塩類風化による削剥は,含水比が高く(塩溶液の供給があり),αが大きい (乾燥しやすい)壁面で活発になり,一方,含水比がきわめて高く,αが小さいという乾燥しにくい壁面では削剥が発生しないという結果が得られた.このことから,塩類風化による削剥の発生は塩溶液の供給量と乾燥しやすさの微妙なバランスに規定されていることがわかった.また,削剥が起こっている地点A, B, Cを取り上げ,削剥量を規定する要因について定量的に検討した.吉見百穴の凝灰岩の塩類風化による削剥量は,岩石強度(UCS)と乾燥化指数αとの比で示されたパラメータα/UCSと比例関係をもつことがわかった. このことは,塩類風化の介在した削剥が,最高地温と最低湿度という風化環境と塩類風化に対する構成岩石の抵抗性に規定されることを示唆している. 

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URL
http://ci.nii.ac.jp/naid/130007017729