MISC

2018年

モンゴル草原生態系に対する遊牧家畜の影響評価

日本地理学会発表要旨集
  • 中野 智子
  • ,
  • 飯島 慈裕
  • ,
  • 伊藤 健彦

2018
開始ページ
187
終了ページ
187
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2018s.0_000187
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

地球上の乾燥・半乾燥地域には草原が広く分布しているが、その状態は気候変動などの自然要因および土地利用などの人為要因の影響を受けて変動し、場所によっては砂漠化・植生劣化などが生じている。モンゴル国では遊牧が基幹産業となっており、ウシ・ウマ・ヒツジ・ヤギ・ラクダなどの家畜が草原で放牧されている。こうした家畜の存在は採食や糞尿の付加を通して、草原生態系に影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では、モンゴル国の半乾燥草原において家畜排除柵を設置し、柵内外の植生・土壌のパラメータを比較することで、遊牧家畜が生態系に及ぼす影響を検討した。また、インターバルカメラを用いて柵周辺の様子を自動撮影し、その画像に写っている家畜の数から実際の放牧圧を評価することを試みた。<br> 本研究の対象地は、首都ウランバートルの南西約130 kmに位置するBayan Unjuul(BU)、および首都の東約130 kmに位置するBaganuur(BN)の2地点である。両村郊外の草原に家畜を排除するための柵(10 m×10 m)を設置し、それぞれ4台のインターバルカメラ(Garden Watch Cam、Brinno Inc.)を、柵の外側(東西南北の4方向)を撮影するように取り付けた。2016年5月以降、10分間隔で自動撮影をおこない、記録された画像に写っていた家畜頭数を種類別にカウントした。また、ヒツジ以外の家畜に係数をかけて、モンゴル国の家畜数評価に用いられるヒツジ数換算(Sheep Unit:SU)をおこなった。2016年8月には現地観測を実施し、柵の内外においてコドラート法による植物地上部バイオマスの測定をおこなった。また柵内外の土壌をサンプリングし、炭素・窒素含有量を測定した。<br> 2016年5月から2017年8月までの間にインターバルカメラで記録された画像には、BU、BNともにウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギが写っていた。東西南北の4方向に向けてカメラを設置したが、4台のカメラの結果は概ね一致していたため、ここでは4台の平均値を用いて議論を行う。2017年8月までの1年3ヶ月の間に画像に写った家畜の数を積算しヒツジ数換算(Sheep Unit: SU)した延べ頭数は、BUでは1288.1 SU、BNでは2361.4 SUであった。また、この間の家畜が写っていた画像の数はBUで169.3枚、BNで211.8枚、家畜が記録された日数はBUで75.7日、BNで96.5日となり、いずれの値もBNがBUを上回っていた。モンゴル国統計局(Mongolian Statistical Information Service)の家畜頭数データから、2016年におけるBU・BN両地点のヒツジ換算頭数を用いた家畜密度を算出したところ、BUが1.1 SU/ha、BNが4.8 SU/haとなった。本研究のインターバルカメラを用いたモニタリングの結果は、2地点の違いという点において、これらの統計データと良い一致を示している。2016年8月下旬に、家畜排除柵の内外で測定した植物地上部バイオマスおよび土壌の窒素・炭素含有量は、BNにおいては柵外の値が柵内の70%程度に低下していたが、BUでは柵内外の有意差が見られなかった。この結果は2地点の家畜出現数の違いと整合的であったといえる。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2018s.0_000187
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130007411925
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2018s.0_000187
  • CiNii Articles ID : 130007411925

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