Profile Information

Affiliation
准教授, 国立極地研究所
Associate Professor, SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies)
Degree
Ph. D.

J-GLOBAL ID
200901034331743275
researchmap Member ID
1000368089

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研究課題と活動状況:
(1)大気波動
客観解析データを用いて、冬季成層圏の極渦境界領域に見られる周期12~24時間、水平波長2000km程度の短周期擾乱の特徴を統計的に調べた。検出された短周期擾乱は、ほぼ順圧な構造と背景風に対して西向きの位相速度を持ち、南北には渦位勾配の極大付近で最大振幅をもつ節無し構造をしていることがわかった。これらの性質は、この短周期擾乱が極渦境界領域の大きな渦位勾配に捕捉された波動であることを示している。また、この擾乱の季節変動や経度分布の解析から、中緯度対流圏界面に卓越する中間規模波動との相互作用の可能性が示唆された (Tomikawa and Sato, 2003)。
中緯度対流圏界面に卓越する水平波長2000~3000kmの中間規模波動は、Sato et al. (1993)による発見以降、波動の観点から研究が進められる一方、波動ではなく孤立渦として扱う方がその非対称性等を説明しやすいことが指摘されてきた。本研究では、客観解析データを用いて中間規模波動の空間構造を示すとともに、準地衡流理論を1次拡張することで、従来の線形波動論では説明できなかった中間規模波動の非対称性等の性質を説明可能であることを明らかにした。また、従来あまり着目されていなかった中間規模波動の鉛直構造についても、1次拡張した準地衡流理論と有限幅を持つ対流圏界面を考慮することで、その運動エネルギー・ポテンシャルエネルギー分布をうまく説明できることを示した (Tomikawa et al., 2006b)。この研究は、著者がトロント大学留学中にその大部分が行われたものであり、トロント大学のT. G. Shepherd教授との共同研究である。
2002年6月に第43次越冬隊が南極昭和基地で行ったラジオゾンデ集中観測において、ほぼ順圧な構造を持つ周期12~15時間の短周期擾乱が高度22km以上の領域で観測された。客観解析データを用いた解析から、水平波長2000km程度の擾乱が渦位極小領域と共に背景風速に等しい位相速度で東向きに伝播していたことがわかった。この擾乱は上記で示した極渦境界領域の捕捉波と共通する性質を多く持つ一方で、渦位勾配がゼロになる領域で観測されるという顕著な相違を示していた。著者は、準地衡流理論に基づく理論的考察から、この擾乱は順圧不安定な背景流中の中立波として解釈できることを示した (Tomikawa et al., 2006a)。
1999~2008年の南極昭和基地MFレーダーのデータを用いて、南極中間圏・下部熱圏における一日大気潮汐波の振る舞いを調べた。潮汐波の位相・振幅の高度分布や季節変化は概ね過去の研究結果と一致したが、これまで報告されていなかった運動量フラックスの南北成分の高度変化が見出された。また、大気潮汐波の全球モデル(GSWM-02)との比較から、大気重力波に起因する消散プロセスの重要性が示唆された(Tomikawa and Tsutsumi, 2009)。
重力波の伝播特性を表現する手法として、critical level filteringとturning level reflectionの双方を考慮したgravity wave transmission diagramを提案した(Tomikawa, 2015b)。

(2)物質分布・輸送
1998年4月に京都大学信楽MU観測所においてオゾンゾンデ・ラジオゾンデ・MUレーダーを用いた集中観測を行い、高度20km付近の下部成層圏において、鉛直幅2~3km程度のオゾン層状構造が時間と共に下方伝播する現象を捉えた。客観解析データにはそのような鉛直に薄い構造は見られなかったが、客観解析データから得られる低分解能の渦位分布と等温位粒跡線解析を組み合わせたRDF (Reverse Domain Filling) 法を用いることで、オゾン層状構造に対応する高分解能の渦位分布を再現することに成功した。その結果、下方伝播するオゾン層状構造が背景風の鉛直シアと水平波長8000km程度の順圧的な停滞性ロスビー波が引き起こす差分移流によって形成されたことが明らかとなった (Tomikawa et al., 2002)。
2003年の南極オゾンホール回復時に極渦内の下部成層圏で観測された17例のオゾン増大層について、第43次南極観測隊オゾンゾンデ集中観測データを用いて調べた。その結果、これらのオゾン増大層は大部分が極渦境界領域起源と考えられるオゾン混合比を持ち、非定常なプラネタリ波の活動に伴って極渦境界領域から侵入していたことがわかった。さらに、オゾンホールの回復に対する上記の形のオゾン流入の寄与を定量的に評価し、その寄与が限定的であることを示した(Tomikawa et al., 2010)。
第54次南極観測隊員として昭和基地で越冬し、初めて成層圏の高精度水蒸気観測に成功した。得られた観測結果をもとに衛星観測との比較や脱水過程の研究を行い、下部成層圏に脱水が不完全な層が存在することを示した(Tomikawa et al., 2015a)。さらに、第57次隊で実施した水蒸気・オゾンゾンデ集中観測のデータを解析し、昭和基地上空の上部対流圏の水蒸気量変動が、総観規模波動による異なる起源を持つ空気塊の輸送によって引き起こされていることを明らかにした(Tomikawa et al., 2023b)。

(3)対流圏界面・成層圏界面
高解像度気候モデルのデータを用いて冬季亜熱帯成層圏界面に現れる気温極大の研究を行った。その結果、成層圏界面直上を夏半球熱帯域から冬半球亜熱帯域に向かう子午面循環の下降流が、断熱圧縮により気温極大を作り出していることがわかった。この子午面循環は、熱帯域の半年周期振動に伴って現れる絶対角運動量の等値線がほぼ水平な領域を通って赤道を横切っていた。冬半球亜熱帯域の下部中間圏では、極側から伝播してきたプラネタリ波と熱帯域の慣性不安定がEliassen-Palmフラックスの収束を作り出し、子午面循環を駆動していた。また、この子午面循環に伴う角運動量輸送は、半年周期振動の季節進行とも密接に関連する(Tomikawa et al., 2008)。
両極域における過去30年間のオゾンゾンデデータを用いて、極域対流圏界面近傍の気温とオゾンに見られる鉛直微細構造の研究を行った。その結果、対流圏界面逆転層と呼ばれる圏界面直上の気温逆転層が、夏季極域では地球上で最も強くなり、冬季(南)極域では消失することを明らかにした。また、オゾンおよび日射との関係から、オゾンによる紫外線吸収が対流圏界面逆転層の形成・消失に寄与しないことを指摘した(Tomikawa et al., 2009; Tomikawa and Yamanouchi, 2010)。

(4)成層圏突然昇温
客観解析データを用いて成層圏突然昇温時の東風が長期間持続する場合とそうでない場合の比較を行った。その結果、東風の持続期間は対流圏からのプラネタリ波の伝播に依存すること、西風の回復は成層圏内のシア不安定に伴うEliassen-Palmフラックスの発散が引き起こしていることがわかった(Tomikawa, 2010)。
高解像度気候モデル中で自励的に発生した成層圏突然昇温の回復過程に関する研究から、昇温回復時に成層圏・中間圏で傾圧・順圧不安定によるプラネタリ波の増幅が起こっていることを突き止めた。さらに、成層圏の東風による重力波のフィルタリングが、昇温後の成層圏界面のジャンプを引き起こしていることを明らかにした(Tomikawa et al., 2012)。

(5)南極域における大気重力波のスーパープレッシャー気球観測(LODEWAVE)
PANSYレーダーによる拠点観測とスーパープレッシャー(SP)気球による面的観測を組み合わせた重力波研究を実施するため、南極域における大気重力波のSP気球観測計画(LOng-Duration balloon Experiment of gravity WAVE over Antarctica:LODEWAVE)を立ち上げた(Tomikawa et al., 2023a)。LODEWAVEの第1回キャンペーン観測は、2022年1~2月に南極昭和基地(69°00’S,39°35’E)において実施され、下部成層圏における近慣性周期重力波をPANSYとLODEWAVEで同時に捉えることに成功した。第2回のキャンペーン観測は、2024年1~2月に昭和基地で実施した。

(6)その他
国立極地研究所粒跡線モデル(Tomikawa and Sato, 2005)のオンライン化、および気象データ表示システムの作成を行い、2007年度よりWeb上での公開を開始した(http://www.firp-nitram.nipr.ac.jp/)。これまでに、同モデルを用いた論文44編(英文37篇、和文7篇)が出版されている。
2012年度より連続観測を実施しているPANSYレーダーと全球雲解像モデルの結果を組み合わせ、低気圧接近時に昭和基地近傍で発生したハイドローリックジャンプのメカニズムを明らかにした(Tomikawa et al., 2015b(極地研プレスリリース))。
客観解析データを用いて、磁気圏からの高エネルギー粒子の降り込みが中層大気に与える影響の解析を新たに開始している。これまでに、過去の研究結果に誤りがあることを指摘し(Tomikawa, 2015b)、気象再解析データから従来とは異なる統計的手法を用いて粒子降り込みの効果を抽出した(Tomikawa, 2017)。

極域観測歴:
(1)北極・ニーオルスンにおけるOPCゾンデ観測(2010年1~2月)
(2)第53次日本南極地域観測隊夏隊(2011年11月~2012年3月)
(3)第54次日本南極地域観測隊越冬隊(2012年11月~2014年3月)
(4)第63次南極地域観測隊夏隊(2021年10月~2022年2月)
(5)第65次南極地域観測隊夏隊(2023年11月~2024年2月)

 

 


Awards

  2

Papers

  85

Misc.

  61

Books and Other Publications

  3

Presentations

  196

Works

  1

Research Projects

  20

Academic Activities

  66

Social Activities

  16

Media Coverage

  10

Other

  10
  • Mar, 2019 - Mar, 2019
    大雪をもたらす環境場の予測可能性研究 -2016年12月22-23日の札幌の事例-
  • Mar, 2019 - Mar, 2019
    Study on Propagation of Atmospheric Gravity Waves in The Antarctic with Lidar Observation
  • Nov, 2016 - Mar, 2019
  • Mar, 2009 - Mar, 2009
    オゾンゾンデ観測データを用いた極域対流圏界面の研究
  • 下層から上層へ影響が及ぶという地球大気の基本的な性質は、高度と共に密度が減少する地球大気の成層構造に由来している。一方で、北極振動の下方伝播に代表される成層圏-対流圏結合など、上層から下層への影響が近年多くの関心を集めている。上層から下層へ影響をもたらすメカニズムとして、波動自身の下方伝播、波動平均流相互作用による平均流加速域の下方伝播、子午面循環の下降流などが挙げられるが、いずれも密度成層の効果に抗していかに大きな影響を下層に及ぼすかがポイントとなる。極域の場合、太陽活動に伴う電離圏・熱圏へのエネルギー注入などもあり、それらが下層に及ぼす影響についてはほとんど未知の分野と言っても過言ではない。そこで、従来型の波動を介した上層から下層へ影響を及ぼすメカニズムだけでなく、中性大気の枠組みだけでは説明しきれない電離圏・熱圏領域のプロセスを考慮した上下結合のメカニズムを構築したいと考えている。これは、中性大気と電離大気・電磁流体を組み合わせる融合研究でもある。 一方で、上下結合の研究は各高度領域の正しい理解に基づいて進められる必要がある。上記研究の結合領域となる中間圏・下部熱圏領域は、観測の困難さもあり、定量的な理解はもちろん、定性的な理解もまだ十分には得られていない高度領域である。このような領域の研究には観測データの蓄積が不可欠であり、欧州非干渉散乱レーダー(EISCAT)や昭和基地MFレーダーといったレーダー群、ファブリーペローイメージャーや全天カメラといった光学測器など、極地研が有する中間圏・下部熱圏領域を観測可能な多数の測器を用いて、この高度領域の研究を進めていきたい。同時に、中間圏の唯一の現業客観解析データである英国気象局(UKMO)データや、中間圏・熱圏の温度・風速を測定するTIMED衛星などのデータと組み合わせ、この高度領域の全球的な理解につなげていきたいと考えている。 また、主に成層圏での物質や運動量の南北方向の輸送・混合を定量的に評価するため、改良ラグランジュ平均に基づく輸送・混合の新たな診断手法を開発している。この診断手法を用いた解析には、高分解能大気大循環モデルのデータが不可欠であり、現在も地球シミュレータを運用する地球環境フロンティア研究センターの研究者と共同研究を行っている。このような大気大循環モデルのデータは、観測の不足している中間圏・下部熱圏領域の研究にも有効であり、観測に対して新たな提案を行える可能性もある。