研究ブログ
トランプ関税と各国の対応のまとめサイトを作りました
トランプ政権の関税措置と、それに対する各国の対応をリンク集としてそれぞれまとめました。
ゼミ生の研究資料として提供することを主たる目的としていますが、随時更新する予定をしていますので、よろしければご活用ください。
ゼミでは、どの品目に対して何パーセントの関税が賦課されているかよりも、それぞれの関税措置や対応措置がどのような法的根拠に基づきとられているのかに注目して研究を進める予定です。
"The Making of an International Investment Facilitation Framework"が出版されました
投資円滑化についての学際的国際共同研究の成果です。私は"Relationship between the investment facilitation for development and other WTO agreements – potential overlaps and complementarities in the non-service sector "とのタイトルで寄稿しています。
よろしければご覧ください。
Society of International Economic Law Ninth Biennial Global Conference参加登録が始まっています
2025年7月9日~11日まで台北で開催されるThe Society of International Economic Law (SIEL) Ninth Biennial Global Conference、Navigating New Horizons: International Economic Law in a Changing Worldのプログラムが公表されました。
日本からも複数の方が登壇されます。日本出身登壇者の数はSIEL史上最大数じゃないかと思います。
私も、The Statecraft of Trade: Balancing Systemic and State Interestsパネルで、"Economic Coercion From a Public International Law Perspective"とのタイトルで報告させていただきます。経済的威圧とは何か、国際法上どう評価されるか、国際法上どのような対応が可能かをお話する予定です。昨年のILA日本協会研究大会でも類似のテーマで報告させていただきましたが、国際情勢がすっかり変わってしまいました。新たな視点を提示できればと思います。
Comparative Trade Law Workshop(ワシントンDC)に参加しました(とその後)
ワシントンDCで開催されたComparative Trade Law Workshopに参加しました。国際平面における法形成が困難となる中で、国内通商法及びその比較の意義を問い直そうという企画です。
私はco-authorのCindy Whang氏とともに、輸出管理をテーマに、国際レジームにおける合意形成が困難となる中で、各国がproactiveな輸出管理を行っていることやそのインプリケーションなどを、日本やその他の国の事例を交えながら報告しました。
Workshopでは、各自が提出したペーパー(book chapter draft)を基に密な意見交換が行われました。ランチ休憩15分!サンドイッチをほおばりながら議論をするという、個人的にはかなり好みなスタイルの集中した2日間でした。
Workshopの成果はいずれ書籍として出版される予定です。
Workshopの後もしばらくワシントンDCにとどまり、貿易及び投資関連の聞き取り調査を行いました。詳細は控えますが、貿易、投資とも、「現場」の空気を知ることができ大変有意義でした。
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ワシントンDCでの仕事の後、「休暇」をいただき、アメリカ東海岸プチ縦断の旅をしてきました。
ほぼ気まぐれで、ボルチモア、フィラデルフィア、プリンストン、ニューヨークと北上しましたが、結果的にアメリカ建国の歴史を学ぶ旅となりました。
ニューヨークでは、建国の父の一人、アレクサンダー・ハミルトンを扱ったミュージカル「Hamilton」を見ました。アメリカ建国の歴史を背景に、ハミルトンやその周りの人々の野心や嫉妬、友情や愛、喪失そして贖罪がヒップホップやラップで語られるという、斬新な作品です。ストーリー、音楽、プロダクションとも素晴らしく、感動しました。これまで見たミュージカルで一番好きな作品かもしれません。King George III(のキャラ)が最高でした。物語の舞台でもあるニューヨークで見るからこその感動もありましたが、日本でも配信で見れるようです。よろしければどうぞ。
WTO法模擬裁判東アジア・オセアニア予選にパネリスト参加しました
WTO法の模擬裁判、John H. Jackson Moot Court Competition on WTO LawのThe East Asia & Oceania Regional Roundのパネリストとして招待いただき参加してきました。
直近では一昨年にジュネーブで開催された本選にパネリスト参加しましたが、Regional Roundに参加するのはコロナ禍でオンライン参加して以来、久しぶりだったような気がします。
模擬裁判は、第一義的には学生に対するWTO法キャパシティービルディングと位置付けられていますが、WTO法やWTO紛争処理についてパネリスト同士で意見交換を行う機会でもあり、今回も私の研究にとっても非常に有意義な機会となりました。
また、昨今国際社会における法の支配が揺らいでいる中で、若い学生たちが熱い法的議論を戦わせていることに、希望の光を感じました。優勝が決まったチームが号泣しているのを見て、思わずもらい泣きしそうになりました。歳のせいでしょうか…。大会の様子はYouTubeでもご覧いただけます。
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今回の予選はプノンペンで開催されました。初カンボジアです。予想以上に発展していて驚きました。Grabというアプリがとても便利で、外国旅行者もトゥクトゥクなどをスムーズに手配できるようになっています。
少し空き時間ができたので、近くのキリング・フィールドとトゥール・スレン虐殺博物館を訪問しました。あまりの惨状に言葉を失いました。
今回のパネリストの中には、クメール・ルージュ裁判に関わったという方もいらっしゃいました。また準決勝と決勝は、クメール・ルージュ裁判残余機構の施設で行われました。
急速に発展する都市と、その片隅に残る歴史と言うにはまだ早すぎる悲劇の傷跡に、とても複雑な気分になりました。
3月11日(火)17時~エラードWTO事務局次長特別講演会(早稲田大学)開催のご案内
2025年3月11日(火)17時より、日本国際経済法学会と外務省の共催により、アンジェラ・エラードWTO事務局次長の特別講演会が早稲田大学早稲田キャンパスにて開催されます。
ルールに基づく自由で公正な経済秩序を維持拡大するためにWTOがどのような役割を果たしているのか、不透明さを増す国際情勢の中でWTOがどのような課題を抱えているのか、エラード事務局次長にお話していただきます。
詳細は日本国際経済法学会ウェブサイトをごらんください。
どなたでもご参加いただけます(参加登録不要)。よろしければどうぞ。
有斐閣Onlineに拙稿「気候変動に関連する投資仲裁と投資協定」が掲載されました
有斐閣Onlineジャーナルの特集「気候変動訴訟の国際的展開」の一部として、論文「気候変動に関連する投資仲裁と投資協定」を掲載していただきました。
エネルギー憲章条約(ECT)に基づく投資仲裁の近年の動向や、2024年12月に採択されたECT改正について分析しています。
特集では、投資分野以外の気候変動国際訴訟についても多数取り上げられています。
なおアクセスには有斐閣Online有料会員としての契約が必要です。よろしければどうぞ。
AALCO Annual Arbitration Forum 2025にパネリスト参加しました
クアラルンプールで開かれているAALCO Annual Arbitration Forum 2025にパネリストとしてオンライン参加しました。
登壇したのはAsian-African Horizons: Mapping the Future of Investor-State Dispute Settlementと名付けられたセッションで、投資家の正当な利益と国の規制権限とのバランスや、ISDS活用のためのAALCOの役割などを議論しました。
聴衆はアジア・アフリカ地域の若いロイヤーが中心のようで、投資協定やISDSに対する認知度はあまり高くないのかなという印象を持ちました。ただ関心はあるようです。
またISDSに対する"空気感"が欧米で開催される会議と異なり興味深かったです。
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オンラインでの登壇は久しぶりの気がします。観客も他のパネリストも対面で自分だけがオンライン、というのは未だに慣れないですね。最後の集合写真もZOOM画面から参加しましたが、自分の顔のアップが背景になっている集合写真、というのは何ともシュールな仕上がりになりそうです…。
米国:カナダ及びメキシコに対する追加的関税賦課の見送り(2025年2月3日付大統領令のポイント)
2025年2月3日、トランプ大統領は、大統領令(Executive Order)「北部国境の状況に関する進展(Progress on the Situation at Our Northern Border)」及び「南部国境の状況に関する進展(Progress on the Situation At Our Southern Border)」にそれぞれ署名した。
「北部国境の状況に関する進展」によれば、大統領は、カナダ政府が違法な移民及び違法薬物について即時の対応を行ったと認め(Sec.1)、2025年3月4日の東部時間12:01 a.m.まで追加的関税賦課を見送ると決定した(Sec.3(a))。ただし、カナダが「通常と異なりかつ異常な脅威」を解消するために十分な措置をとったかを評価するにはさらなる時間が必要としている(Sec.1)。また違法移民及び違法薬物についての危機が悪化しかつカナダ政府が危機を緩和するための十分な措置をとっていない場合には、大統領は必要な措置(追加的関税の即時賦課を含む)をとるとしている(Sec.3(c))。
「南部国境の状況に関する進展」では、メキシコについて同様に決定している。
米国:カナダ・メキシコ・中国に対する追加的関税賦課(2025年2月1日付大統領令とファクトシートのポイント)(2025年2月9日追記)
2025年2月1日、トランプ大統領は、大統領令(Executive Order)「北部国境からの違法薬物の流入に対応するための関税賦課(Imposing Duties to Address the Flow of Illicit Drugs across Our Northern Border)」に署名した。
同大統領令によれば、フェンタニルなどの違法薬物の流入は、2025年1月20日付大統領覚書(Presidential Memorandum)「アメリカ第一主義の貿易政策(America First Trade Policy)」や2025年1月20日付大統領令第14157号「カルテルなどの組織の外国テロ組織及び特別指定グローバルテロリストとしての指定(Designating Cartels and Other Organizations as Foreign Terrorist Organizations and Specially Designated Global Terrorists)」において指摘されているような公衆衛生上の危機(public health crisis)を米国にもたらしている。
同大統領令は、大統領が下記の措置をとると定めている。
Sec.1(a):2025年1月20日付大統領布告(Presidential Proclamation)第10886号「南部国境における国家緊急事態の宣言(Declaring a National Emergency at the Southern Border)」において、違法な外国人(illegal aliens)及び違法薬物の流入が米国に深刻な脅威(grave threat)をもたらしているとして国家緊急事態を宣言しているところ、国家緊急事態法(National Emergencies Act: NEA)に基づき、上記大統領布告の対象をアメリカ人の安心と安全(safety and security)(公衆衛生上の危機を含む)に対する脅威に拡大する。カナダが違法薬物の流入などに対応していないことは、米国の国家安全と外交政策に通常と異なりかつ異常な脅威(an unusual and extraordinary threat)となっている。したがって、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act: IEEPA)第1702条(a)(1)(B)号に基づき本大統領令に定めるカナダ産産品に従価関税を賦課する。
Sec.2(a):連邦官報(Federal Register)通告で定義されるすべてのカナダ産産品(下記Sec.2(b)の産品除く)に対し、2025年2月4日から25%の追加的関税を賦課する。
Sec.2(b):2025年1月20日付大統領令第14156号「国家エネルギー緊急事態の宣言(Declaring a National Energy Emegency)」第8条で定義されるエネルギー又はエネルギー資源(energy or energy resources)で連邦官報においてカナダ産と定義される産品(カナダ産原油など)に対し、10%の追加的関税を賦課する。
Sec.2(d):仮にカナダが米国産品に対する関税などによって対抗する(retaliate)場合には、大統領は本大統領令で定めた税率を引き上げることができる。
Sec.2(h):Sec.2(a)の対象となる産品について、デミニミス待遇は適用しない。
Sec.2(c), (e), (f), (g), (i), (j):[省略]
Sec.3(a):国土安全保障長官は、北部国境の状況について関係部局と定期的に協議し、またカナダが公衆衛生上の危機を緩和するための適切な措置をとったと判断する場合にはその旨を大統領に報告しなければならない。カナダが十分な措置をとったと大統領が判断する場合には、Sec.2の関税は撤廃される。
Sec.3(b):仮にカナダが違法移民及び違法薬物の流入を緩和するための適切な対応を行わなかった場合には、国土安全保障長官は、関係部局と調整の上、追加的な措置を勧告しなければならない。
Sec.4:[省略]
Sec.5:国土安全保障長官は、関係部局と調整の上、NEA第401条(c)号及びIEEPA第204条(c)号に基づき議会へ報告を行う権限を与えられる。
Sec.6:[省略]
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同日、トランプ大統領は、大統領令(Executive Order)「南部国境における状況に対応するための関税賦課(Imposing Duties to Address the Situation at Our Southern Border)」にも署名し、メキシコについても国家緊急事態宣言の対象を拡大するとともに、メキシコ産品への25%の追加的関税賦課を決定している。
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同日、トランプ大統領はまた、大統領令(Executive Order)「中華人民共和国における合成オピオイドのサプライチェーンに対応するための関税賦課(Imposing Duties to Address the Synthetic Opioid Supply Chain in the People’s Republic of China)」に署名し、国家緊急事態宣言の対象を中国の問題にも拡大し、中国産品への10%の追加的関税賦課を決定している。
※追記
カナダとメキシコに対する追加的関税は当面見合わせとなったが、中国に対する追加的関税は実際発動された。
上記大統領令によれば、対中追加的関税にはデミニミス待遇(輸入貨物の申告額が800ドル以下の輸入貨物に対する関税免除)は適用されないとされていたが、その後米郵政公社(USPS)が一時中国及び香港から米国への国際小包の受け取りを停止すると発表する事態となっていた。
これを受けて、2025年2月5日付の大統領令「中華人民共和国における合成オピオイドのサプライチェーンに対応するための関税の改正」では、デミニミス待遇は引き続き適用されるが、完全かつ迅速に関税を徴収するための適切な制度が整ったと商務長官が大統領に通知した段階で適用が停止されることになっている。
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2025年2月1日付ファクトシート「トランプ大統領はカナダ、メキシコ及び中国からの輸入に関税を賦課する(Presidential Donald J. Trump Imposes Tariffs on Imports from Canada, Mexico, and China)」によれば、違法な移民及び薬物による異常な脅威が改善されるまでは、カナダからメキシコの輸入に対し25%の追加的関税(カナダ産のエネルギー資源については10%)、中国からの輸入に10%の追加的関税が賦課される。