腫瘍(癌)組織中には、正常組織の幹細胞(以下、「正常幹細胞」)と類似した能力をもつ「腫瘍(癌)幹細胞」が存在すると近年提唱されている。腫瘍幹細胞は腫瘍の治療抵抗性や進展と深くかかわるとされるため、この腫瘍幹細胞を標的とする治療法の開発が期待されている。しかし、現在に至るまで腫瘍幹細胞には特異的マーカーがなく、同治療の実現は依然として困難である。今回われわれはDclk1という分子に着目し、Dclk1が腫瘍幹細胞の特異的マーカーになり得るかについて検討した。細胞系譜解析の結果、Dclk1は正常腸管の幹細胞マーカーではないが、腸腫瘍では腫瘍幹細胞マーカーであることが明らかとなった。また、Dclk1陽性細胞の選択的障害により、正常腸管には障害を与えず、腸腫瘍のみを退縮させることが可能であることが示された。Dclk1を目印とする「腫瘍幹細胞標的治療」が、今後の癌治療においてきわめて有効なストラテジーとなることが期待される。(著者抄録)