眼球の形成期における水晶体の表面は,瞳孔膜と呼ばれる血管網で覆われている.瞳孔膜は水晶体上皮細胞を栄養した後,光路を保つためアポトーシスにより消退する.しかし,瞳孔膜のアポトーシスを誘導する因子については十分解明されていない.私はラット眼において,瞳孔膜の消退時期に一致して虹彩の運動能(縮瞳・散瞳能)が成熟することに着目し,"虹彩の動き"が瞳孔膜のアポトーシスを誘導しているのではないかと考えた.まず,生体顕微鏡を用いて虹彩運動(縮瞳・散瞳)に伴う瞳孔膜の血流変化を可視化した.その結果,縮瞳時に瞳孔膜の血流が停止し,散瞳時に血流が再開することが明らかになった.次に,散瞳薬を点眼し虹彩運動を持続的に抑制すると,瞳孔膜血管内皮細胞のアポトーシスが対照群に比べて有意に抑制された.以上から,虹彩の動きが瞳孔膜に血流の変化(虚血・再灌流)を起こし,血管内皮細胞のアポトーシスを誘導すると結論した.(著者抄録)