MISC

2019年

河川改修以前の荒川における堤外地集落の空間構成と住民の生業との関係

日本地理学会発表要旨集
  • 矢澤 優理子
  • ,
  • 古谷 勝則

2019
0
開始ページ
55
終了ページ
55
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2019a.0_55
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

<p>1.はじめに</p><p> 持続可能な社会の実現に向けて自然共生の手法が模索される中,里山・里海における空間利用のシステムが着目されてきた。このような,地域の人と自然が共に築いてきた生活環境かつ二次的自然環境において,人と自然の相互作用を明らかにすることは,持続可能な社会の構築を目指す上で大きな意義をもつ。一方で,山と海をつなぐ河川空間については,これまで「人と自然の共生空間」としては着目されてこなかった。</p><p> 近年,想定規模を超える豪雨の発生やそれに伴う水害の危険性が高まっており,河川との共存にむけた地域のレジリエンスを高めることが不可欠である。そのためには,河川空間が人と自然の共生空間であるとの観点に立ち,河川と共存してきた人々の生活のあり方を明らかにすることが必要であると考える。本研究では,その基礎資料の一つを提供することを目指し,河川空間に存在した集落(堤外地集落)の空間構成と,その住民の生業との関連を明らかにすることを目的とする。</p><p>2.対象地域の概要</p><p> 本研究では,埼玉県下の荒川堤外地における集落を対象とする。埼玉県及び東京都を貫流する荒川には,現在も広大な堤外地が存在している。関東一円に大規模な被害をもたらした明治43年の洪水以降,荒川では下流域から順次大規模改修工事が進められたが,この時埼玉県下では,首都東京を水害から守るという名目で大規模な遊水空間となる堤外地が維持された。このような歴史的背景の中で堤外地に多くの集落が残され,以降,平成期に至るまで維持されてきた。以上から,研究対象となる集落が多く集落の空間構成と人々の生業との関係を考察する上で最適であると考え,上記を対象地域として選定した。</p><p>3.研究方法</p><p> 『荒川堤外地調査平面図』において堤外地集落を特定,土地利用をトレースし,このトレース図をもとに集落の空間構成を類型化した。また,明治末期の地域の状況を示した『武蔵国郡村誌』を用いて集落ごとの生業を調査した。以上を踏まえ,集落の空間構成と生業の関係を考察した。</p><p>4.結果と考察</p><p> 対象地域である荒川堤外地において,選定された集落は51か所であった(右図)。また,土地利用のトレースによる調査の結果,集落の空間構成は①「集村型」,②「散村型」,③「列村型」の3種類に区分され,その内訳は①「集村型」が10集落,②「散村型」が7集落,③「列村型」が34集落となった。なお,③「列村型」には,a)道路に沿うタイプ,b)堤防に沿うタイプ,c)川に沿うタイプの3種類に区分できた。</p><p> 集落ごとの生業を上述の文献により調査した結果,全集落の基幹産業は農業であり,農業のみを生業としている集落が44集落であった。そのほかの7集落では,工業,商業,雑業,紡織などが営まれており,うち2集落では漁猟も行われていた。また,明治期まで河岸場であった(もしくは根拠図の作成年度においてまだ河岸場の機能があった)集落が18,渡船場となっている集落が17,橋のある集落が8あった。これらの集落では,いずれもその大半が「列村型」であり,特に河岸場と渡船場では顕著であった。また,上述した漁猟の実績がある2集落も共に「列村型」であることから,船への荷物の積み下ろしや渡船,漁猟という川と関連する生業が,集落の空間構成に影響を与えていることが示唆された。</p>

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2019a.0_55
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130007711057
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2019a.0_55
  • CiNii Articles ID : 130007711057

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