論文

2015年

背臥位での骨盤挙上位が安静呼吸時の横隔膜位置,横隔膜移動距離および呼吸パターンに及ぼす影響

理学療法学Supplement
  • 石塚 達也
  • ,
  • 西田 直弥
  • ,
  • 本間 友貴
  • ,
  • 石田 行知
  • ,
  • 柿崎 藤泰

2014
開始ページ
1175
終了ページ
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2014.1175
出版者・発行元
公益社団法人 日本理学療法士協会

【はじめに,目的】肺気腫をはじめとする呼吸器疾患患者では病態や姿勢の悪化により横隔膜機能が低下し,換気能の低下に陥り,低酸素血症を助長する。その結果,呼吸パターンとしては呼吸数を多くする必要性が高まり,呼吸補助筋においては過負荷になり,呼吸困難を増悪させる一要因となる。その悪循環の改善には横隔膜の機能再建が最重要事項となる。そこで本研究では,臨床上横隔膜の機能再建にあたり有用性のある肢位(背臥位での骨盤挙上位)の検証を目的とした。【方法】対象は呼吸器疾患や脊椎疾患の既往のない健常成人男性11名とした(年齢24.9±2.3歳,身長168.8±3.9cm,体重61.1±5.5kg,BMI21.4±1.7)。測定肢位は,安静肢位(Rest)と骨盤挙上位(Pelvic lift:PL)とした。Restは背臥位にてレッドコード(redcord,Norway)を用い,股関節と膝関節を90°屈曲位にした状態とした。PLはRestから骨盤を懸垂した状態とした。骨盤を懸垂する程度は,上後腸骨棘がベッドから3cm離れる程度とした。横隔膜位置と横隔膜移動距離の測定は,デジタル超音波診断装置(HI VISION Preirus,日立メディコ)を用いて行った。測定課題は安静呼吸とした。4MHzのコンベックス式トランスデューサを使用し,右側鎖骨中線上の肋骨弓下横断走査にて測定した。Bモードにて,右側横隔膜後方部を確認した後,Mモードに切り替え,Sweep speedを最も遅くし,右側横隔膜移動距離を測定した。また,安静呼気位における体表から横隔膜までの距離を横隔膜位置として測定した。それぞれ安静呼吸3回分の平均値を算出し,個人の代表値とした。呼吸パターンの測定は,呼気ガス分析装置(AS-300S,ミナト医科学社)を用いて行った。測定課題は安静呼吸とした。測定項目は,一回換気量(TV),呼吸数(RR),分時換気量(VE),酸素摂取量(VO2),呼気時間(Te),吸気時間(Ti)とした。測定は3分間行い,測定開始1分後から1分間のデータの平均値を個人の代表値とした。また,呼吸のしやすさの評価としてVisual analog scale(VAS)を測定した。左端を「非常に呼吸しにくい」,右端を「非常に呼吸しやすい」とした。統計学的解析は,RestとPLの比較を対応のあるt検定を用いて行った。有意水準は5%未満とした。【結果】横隔膜位置はRest145.5±10.8mm,PL152.0±11.6mmであり,Restと比較してPLが有意に頭側に位置していた(p<0.05)。横隔膜移動距離はRest16.1±3.7mm,PL23.1±3.8mmであり,Restと比較してPLが有意に大きかった(p<0.01)。TVはRest625.7±135.7ml,PL857.2±231.3mlであり,Restと比較してPLが有意に大きかった(p<0.01)。RRはRest12.1±4.0回/分,PL9.0±3.2回/分であり,Restと比較してPLが有意に小さかった(p<0.001)。VEはRest7.1±1.4l/min,PL7.3±2.2l/minであり,有意差はなかった。VO2はRest239.8±32.9ml/min,PL229.0±19.5ml/minであり,有意差はなかった。TeはRest3.4±1.1sec,PL4.3±1.3secであり,Restと比較してPLが有意に長かった(p<0.01)。TiはRest2.2±0.6sec,PL3.1±1.1secであり,Restと比較してPLが有意に長かった(p<0.01)。VASはRest4.9±1.8,PL7.8±0.9であり,Restと比較してPLが有意に高かった(p<0.001)。【考察】本研究結果より,Restと比較してPLでは安静呼気位での横隔膜位置はより頭側に位置し,安静呼吸時の横隔膜移動距離が大きくなった。また,VEやVO2が変化することなく,TVは増大,RRは減少し,Te,Tiはいずれも延長した。つまり,呼吸パターンの質的変化が生じた。以上の結果となった要因としては,PLでは骨盤を後傾位に,そして胸部に対し骨盤が高位になるよう環境設定される。この身体環境が腹部内容物を頭側へ移動させ,横隔膜の底面に圧力を加えることが可能となる。結果的に,この力学的メカニズムが横隔膜を挙上させ,腹部前面筋の機能低下を補う作用として働いたものと考える。横隔膜は安静呼気位付近で適切な長さ-張力となるため最大の筋力を発生するとされている。そのため,PLにより横隔膜の収縮効率が高まり,呼吸に対する横隔膜の貢献が大きくなることで換気効率が向上し,呼吸のしやすさが得られたと考える。【理学療法学研究としての意義】今回の研究結果より,PLが横隔膜や呼吸パターンに与える影響が明らかとなった。換気能が低下した呼吸器疾患患者に対して,PLのようなポジショニングを臨床応用していくことで横隔膜の機能を効率的に高めることができ,その結果として呼吸仕事量が減少し,呼吸困難を軽減させることが可能となると考える。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2014.1175
CiNii Research
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680552203008?lang=ja
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2014.1175
  • CiNii Articles ID : 130005248867
  • CiNii Research ID : 1390282680552203008

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