基本情報

所属
島根大学 学術研究院 農生命科学系 教授
学位
博士(理学)(2008年3月 山口大学)
修士(理学)(2005年3月 山口大学(早期修了))
学士(理学)(2004年3月 山口大学)

連絡先
kodamalife.shimane-u.ac.jp
研究者番号
80582478
ORCID ID
 https://orcid.org/0000-0003-1263-349X
J-GLOBAL ID
201301008391703614
researchmap会員ID
B000227063

外部リンク

研究テーマ

1.  繊毛虫のミドリゾウリムシと緑藻クロレラを用いた細胞内共生の成立および維持機構の解明

2.  ミドリゾウリムシと共生クロレラの生物資源としての実用化に関する研究


  研究内容  

 淡水産の繊毛虫のミドリゾウリムシParamecium bursaria)の細胞内には緑藻類のクロレラが共生している。ミドリゾウリムシは体長約120 μmの単細胞の真核生物で、1細胞内の共生クロレラ数は約700細胞にも及ぶ。

 ミドリゾウリムシとクロレラは古くから知られている相利共生の関係にあるが、まだ互いの存在が生存に必須なまでに共生関係が進んでいる「絶対共生」の関係には至っておらず、それぞれ単独での生存が可能である。したがって、ミドリゾウリムシは動物細胞が植物化する進化の中間段階の性質、つまり、独立栄養生物と従属栄養生物の両方の性質を合わせもつ混合栄養生物であるといえる。そのため、1950年代以降から現在に至るまで真核生物の進化や多様化に関する研究のモデル生物とされてきた。

 クロレラを人為的に除去した白色のミドリゾウリムシに、ミドリゾウリムシから単離した共生クロレラを与え経時的に観察し、クロレラの再共生過程の全容を初めて明らかにした(Kodama and Fujishima, 2005, Protoplasma)。また、再共生の成立に必須な次の4つのチェックポイントの存在を明らかにした。

①クロレラ除去細胞とクロレラを混合してから3分以降に、アシドソームとリソソームが融合した宿主食胞内で一部のクロレラが一時的に宿主消化酵素に耐性を示す(Kodama et al., 2007, Protoplasma)。

②30分以降に、ダイナミンが関与する食胞膜の出芽によってクロレラが宿主細胞質中に1細胞ずつ遊離する(Kodama and Fujishima, 2012, Protist)。

③細胞質中に遊離したクロレラを包む食胞膜が、宿主リソソーム融合を阻止する共生胞(perialgal vacuole, PV)膜に分化する (Kodama and Fujishima, 2009, Protist)。

④共生クロレラを包むPV膜が宿主細胞表層直下に接着して安定化し、24時間後には細胞分裂を開始して細胞内共生を成立させる(Kodama and Fujishima, 2012, Environmental Microbiology)。

各チェックポイントの調節機構に関して次の結果を得ている。

①クロレラが示す消化酵素耐性

クロレラの細胞周期、クロレラの宿主食胞内での位置、クロレラの種類、クロレラと宿主のタンパク質合成活性の有無とは無関係である(Kodama et al., 2007, Protoplasma)。

予め恒暗条件下で培養しておいたクロレラは、宿主食胞内での消化酵素耐性を失う(Kodama and Fujishima, 2014, FEMS Microbiology Ecology)。

恒明条件下で培養したクロレラには、宿主食胞の酸性化を遅らせる働きがある(Kodama et al., 2017, Symbiosis)。

宿主外で共生クロレラを培養してクロレラ除去細胞に与えると、定常期初期のクロレラは共生できるが定常期のクロレラの大部分は消化される(Kodama and Fujishima, 2016, Biology Open)。

②クロレラの食胞膜から細胞質中への遊離

一定以上の直径を持つ顆粒ならクロレラ以外の細胞やラテックスビーズでも誘導される(Kodama and Fujishima, 2005, Plotoplasma)。

食胞膜のくびりとりには、ミトコンドリアや葉緑体が分裂する時にも重要な”ダイナミン”が関与している(Kodama and Fujishima, 2012, Protist)。

食胞膜のくびりとりは非常に精度が高く、直径の小さなラテックスビーズとクロレラが食胞膜内に一緒に取り込まれた状態でも、クロレラ1細胞のみが精密にくびりとられる(Kodama and Sumita, 2022, Plotoplasma)。

③PV膜の機能の獲得と維持

食胞膜からPV膜への分化は、クロレラが食胞膜から出芽して15分以内に起こる(Kodama and Fujishima, Protist, 2009)。

クロレラのタンパク質合成を選択的に阻害すると、PV膜の膨張、宿主細胞表層直下からの遊離、およびPV膜内のクロレラの消化が同調的に誘導される。したがって、PV膜の機能の獲得と維持には共生クロレラが光合成時に合成するタンパク質を必要とする(Kodama and Fujishima, 2008, Protist; Kodama et al., 2011, Protist)。

④クロレラの宿主細胞表層直下への接着

クロレラの再共生過程において、クロレラの接着はまず宿主の前端または後端以外の場所から起こる(Kodama, 2013, Symbiosis)。

クロレラの接着には、その場所に予め存在する細胞小器官のトリコシストの局所的除去を伴い、共生クロレラの有無がトリコシスト数と配置を可逆的に変化させている(Kodama and Fujishima, 2009, Protist; Kodama and Fujishima, 2011, Protoplasma)。

共生クロレラの消化によって得られた産物が、ミドリゾウリムシのトリコシストの合成を促進する可能性がある(Kodama and Miyazaki, 2021, Current Microbiology)。

ミドリゾウリムシ細胞を高速で遠心することで、表層直下に接着した共生クロレラの離脱を誘導することができ、離脱したクロレラは宿主の原形質流動によってただちに再接着する(Kodama and Fujishima, 2013, Protist)。細胞表層直下から離脱したクロレラの再接着にはトリコシストは不必要であるが、ミトコンドリアとは共局在しているのが観察された(Kodama and Fujishima, 2023, FEMS Microbiology Letters)。

表層直下への接着後、クロレラは宿主の栄養状態に合わせて分裂を開始し、細胞内共生を成立させる(Kodama and Fujishima, 2012, Environmental Microbiology)。

Spongilla fluviatilisの共生藻や大部分のfree-livingクロレラは接着できない(Kodama and Fujishima, 2007, Protoplasma)。

Mayorella viridisの共生藻は接着でき、ミドリゾウリムシ細胞内で分裂し増殖する(Kawai et al., 2017, Symbiosis)。

元の共生クロレラを感染させるとクロレラは1細胞ずつPV膜に包まれて細胞表層直下に接着するが、自由生活性のクロレラを感染させるとクロレラは複数個が1つの膜に包まれて、細胞表層直下に接着する(Kodama and Endoh, 2023, Current Microbiology)。

 さらに、クロレラと共生前後のミドリゾウリムシのトランスクリプトーム解析を行い、共生によって発現が変化するミドリゾウリムシの遺伝子を初めて明らかにした(Kodama et al., 2014, BMC Genomics)。この論文は、アクセス数が多い注目論文として、同雑誌のHighly accessed articleに認定された。

 また、ミドリゾウリムシの細胞内にクロレラが共生すると、宿主ミドリゾウリムシのミトコンドリア数が減少し、その機能も低下することを複数の方法で初めて証明した(Kodama and Fujishima, 2022, Scientific Reports)。

左からミドリゾウリムシ、クロレラ除去細胞、抗トリコシストモノクローナル抗体を用いた間接蛍光抗体法写真、ミドリゾウリムシ培養試験管

左から共生クロレラを持つミドリゾウリムシ、人為的にクロレラを除去して作成した白色細胞、抗トリコシストモノクローナル抗体を用いた間接蛍光抗体法写真、ミドリゾウリムシ培養試験管 

 

細胞内にクロレラが共生しているミドリゾウリムシとクロレラ除去白色細胞の動画。細胞内で光っているものはカルシウム塩とリン酸塩から成る結晶構造。

 

  目標   

 細胞内共生は、原核細胞からの真核細胞の誕生や、真核細胞の進化と多様化の原動力となった普遍的生命現象で、地球上の至るところで繰り返して行われている。本研究成果は、生物多様性を創出した細胞内共生の成立機構の解明に突破口を与えるだけでなく、サンゴと褐虫藻の共生のように生態系に重要な役割を果たす現象の保全にもつながると期待している。

 また、ミドリゾウリムシを用いた水環境改善や、ミドリゾウリムシが持つ有用物質の単離と利活用、ミドリゾウリムシの水生生物の餌としての活用など、環境改善やSDGs実現に関する取り組みも行なっている。

 

  3分間 研究紹介動画【夢ナビTALK】

ミドリゾウリムシが解き明かす細胞進化の謎/【夢ナビTALK】(3分間)

 

  30分間 研究紹介動画【夢ナビ講義】

ミドリゾウリムシが解き明かす細胞進化の謎 (30分のミニ講義動画)


委員歴

  15

受賞

  12

論文

  34

MISC

  11

書籍等出版物

  4

講演・口頭発表等

  105

担当経験のある科目(授業)

  40

所属学協会

  4

共同研究・競争的資金等の研究課題

  33

社会貢献活動

  28

メディア報道

  28

その他

  1
  • 2002年11月 第68回文部科学省認定秘書技能検定試験3級 2006年3月23日 高等学校教諭一種免許状(理科)