論文

査読有り
2013年

退役軍人巡礼事業における「戦争の平凡化」の過程:アメリカ在郷軍人会による西部戦線巡礼と「聖地」創出

社会学評論
  • 望戸 愛果

63
4
開始ページ
569
終了ページ
584
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.4057/jsr.63.569
出版者・発行元
日本社会学会

G. Mosseの歴史社会学的議論において, 戦間期における戦場観光旅行の流行は, 現実の戦争を矮小化する「戦争の平凡化」の過程として捉えられ, 従軍体験のある退役軍人はもっぱらその流行を嘆く反対者か, あるいはその流行に抗いがたく追随する消費者として描かれてきた. 一方で, このような議論においては, 戦争の記憶の大衆消費の拡大過程において退役軍人自身が果たす役割は等閑視されている.<br>本稿では, アメリカ最大の退役軍人組織であるアメリカ在郷軍人会 (1919年創設) による, 戦間期における西部戦線巡礼事業の変遷を論じる. 在郷軍人会による巡礼者の選抜・募集方法, 旅行会社・船会社との契約関係のあり方, さらに実際に巡礼に参加した退役軍人の所感は, 報告書, 書簡, 機関誌, 議事録等の一次資料から析出することができる. このような分析から明らかにされてくるのは, 従来の研究において想定されているように「平凡なるものの侵略から神聖なるものを防衛」せんとする退役軍人の守旧的態度ではない. むしろ, 船会社との独自契約によって生み出された利益構造を組織運営に取り込み, 大衆娯楽小説や観光ガイドブック上のイメージを退役軍人向けに巧みに加工・流用し, ついには戦場・墓地巡りに特有のものであったはずの巡礼の「神聖性」の定義までをも大幅に変化させていく最大退役軍人組織の戦略的事業展開なのである.

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.4057/jsr.63.569
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004549960
CiNii Books
http://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00109823
URL
http://id.ndl.go.jp/bib/024721202
ID情報
  • DOI : 10.4057/jsr.63.569
  • ISSN : 0021-5414
  • CiNii Articles ID : 130004549960
  • CiNii Books ID : AN00109823

エクスポート
BibTeX RIS