講演・口頭発表等

2005年

人工的な餌環境がヤクシマザルの咬耗程度に及ぼす影響

霊長類研究 Supplement
  • 阿部 操
  • ,
  • 竹元 博幸

(目的)現代人の多くが不正咬合を有しており、特に叢生の占める割合が高い。この不正咬合の原因の一つとして顎と歯の大きさが釣り合っていない場合がかなり認められ、軟食への食習慣の変化が原因としてあげられている。演者が屋久島からモンキーセンターへ移籍したことにより、食物が軟食化したと考えられるヤクシマザルの顎骨形態を世代を追って調査した結果、縮小傾向が認められた(第15回霊長類学会発表)。今回演者らは、屋久島からモンキーセンター移されたことで実際に餌環境が軟食化したのかを確認するため、同じ資料を用いて資料の咬耗程度を調査し、第1世代と第2世代以降とで比較した。<br> (資料および方法)日本モンキーセンター所蔵の、屋久島で捕獲され日本モンキーセンター犬山野猿公苑で飼われた第一世代と同野猿公苑で生まれ育った第2世代から第4世代のヤクシマザル雌成獣乾燥頭蓋の、上下顎第1、第2大臼歯および第3大臼歯の咬耗程度を調査した。<br> (結果および考察)第1世代が第2世代以降と比較して咬耗の程度が著しかった。硬い食物は軟らかい食物と比較して歯により咬耗を起こさせることから、ヤクシマザルの屋久島での食物(揚妻、1995)と比較して、日本モンキーセンター犬山野猿公苑で餌として与えられているサツマイモ、リンゴ、さなぎ、小麦、果実およびピーナッツの方がより軟かく、咀嚼系の負担が軽減されたためと考えられる。野生での餌環境から人工的な食物への変化、つまり軟食化が顎の縮小傾向をもたらした大きな要因であると思われる。

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URL
http://ci.nii.ac.jp/naid/130006996352