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よい大学の先生は何をしているか?:ベストプロフェッサー

いくつかの小さな積み重ねに勢いがついて大きな飛躍をする、ということを時々経験します。最近では、教育系の取り組みがそうです。単に個々の講義をよくしようと思っていただけのところに、掲示板を導入してみて、講義をサポートするシステムの重要性を認識しました。それで、「データや知見の共有基盤を大きな研究テーマにしているのだから、教育だった一種の知識や知見(の構築方法)のシェアなんだから研究テーマとしても取り組んでいいやん」というわけです。単に情報システム構築ではなくて、今年度から挑戦的萌芽で始まった「柔軟なデータベース(KAKENにはまだないようです)」の考え方も活かせると予想しています。そうこうしていると、今度は教育をテーマにしたい卒研生が配属されたりして、ますます教育方面のことを調べて...というようになっています。

さて、このような過程で教育心理学や教育工学等の本をあさり、面白い本を見つけたので紹介します。
ベストプロフェッサー (高等教育シリーズ)
ケン ベイン
玉川大学出版部(2008/05/01)
値段:¥ 3,150


これは、大学教師のうちベストプロフェッサーと呼ぶべき優秀な教師が何をしているのか、他とはどう違うのかを研究として調査したものをベースに、一般向けの本としてまとめたものです。この本を読む前から教育については工夫をしていたので、読む前から知っていたことも多くありましたが、それ以上に、無意識に実行していたけど概念化できていなかったことや、まったく知らなかったことも多くあり、非常に参考になりました。参考になり具合を示すものとして貼りつけたポストイットの数をお見せします。
研究成果がベースになっているため、単なる著者の思いつきという感じはなくて、体系だっており、読みごたえは十分です。ただ、それだけに、日本語訳が残念な感じです。内容が重めで、かつ、文章がこなれていないので、さくさく読み進めるという感じではありません。しかし、そういう欠点を考えても、非常に面白かったです。実際、最初に読んだのは図書館の書棚で見かけた借りたものですが、その後、日本語版はもちろん、英語版も購入しました。

さて、内容がずっしりなので安易なまとめは避けて、自分にとって印象的だったことを書いてみます。

一番印象的だったのは、学生のメンタルモデルについてです。これは、物体の落ちる速さを例を使って書いてありました。つまり、物理の成績が優秀なものであっても、物体は重いものが速く落ちると信じているというのです。こういうメンタルモデルを持っている学生に対して、うまくない講義をやると、学生は「学校で学ぶことはテストをパスするために覚える」というように対処し、物体の重さと速度について講義で学んで、しかも、テストではきちんと点が取れても、メンタルモデルはそのままというのです。逆に、ベストプロフェッサーの大きな特徴は、そのようなメンタルモデルでは説明できない例を示し、自分の生活と密着して考えさせ、最終的にメンタルモデルを変えることができる、と書いてあります。

これと同様の思いは持っていましたが、このメンタルモデルという概念で非常に納得がいきました。これは、大学だけに限らず、受験のみを成果として追い求める場合でも同様です。受験のゴールは志望校への合格であり、学んこと自体は受験後は忘れても構いません。また、時間制限があるため、いかに効率よく学ぶかが重要で、(通常は)時間がかかるメンタルモデルの構築まで踏み込むことはないのでしょう。少し話しがそれますが、受験については、「子どもが熱くなるもう一つの教室—塾と予備校の学びの実態(佐伯 胖)」も面白ろかったです。ここで紹介されていた、塾で学んだテクニックはあるけど、なぜそうなるかを説明できない子がきっかけで、クラスメートが熱い議論を交し、みんなが納得するというのは一つの理想ではないでしょうか。