論文

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2013年7月30日

森林景観において境界効果はどこまで及んでいるのか?(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る)

日本生態学会誌
  • 酒井 敦
  • ,
  • 山川 博美
  • ,
  • 清和 研二

63
2
開始ページ
261
終了ページ
268
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.18960/seitai.63.2_261
出版者・発行元
日本生態学会

針葉樹人工林の公益的機能を重視する立場から、自然林と人工林の境界域において人工林側への境界効果がどれくらいの距離に及んでいるのか、本特集の論文の成果を元に整理し、今後の課題を検討した。既往の研究事例から種子の散布距離を調べたところ、風散布種子、動物被食散布種子は、母樹または森林の境界から100m以上離れても散布されていた。貯食散布は散布者によって運搬距離は異なり、ネズミ類は概ね30m以内、リスは50m以上堅果類を運搬して地面に埋めていた。カケスは運搬能力が高く、250m程度堅果類を運搬していた。種子は広い範囲に散布され、人工林にも散布されているが、植物の定着には様々な物理的、生物的な境界効果が働いている。植物の定着には菌根菌や病原菌の影響が大きい。落葉広葉樹林とスギ林の境界域では外生菌根菌がスギ林側に10m程度しか分布していなかった。スギはアーバスキュラー菌根と共生関係にあるが、スギ林内では同菌根菌と共生関係にある広葉樹の生存率や成長がよいことがわかった。このような、菌類や食植者との生物相互作用を解明し、人工林に定着する植物にとっての正および負の境界効果を解明する必要がある。境界効果の大きさや種類は時間とともに変化し、特に境界が発生した直後(皆伐直後)と植生が回復する初期段階では物理的、生物的境界効果が変化していると考えられる。地形が急峻な日本においては地形のバイアスがかかり、境界効果を純粋に評価することが難しいため、試験の設定には注意する必要がある。冷温帯の構成樹種は風散布種子が多く、照葉樹林は動物被食散布種子が多い。また、西日本と東日本では人工林と自然林の大きさや比率、景観構造が異なる。人工林の公益的機能回復を図る場合は、それぞれの景観構造に合った処置を行うべきである。我が国において、人工林側の生態プロセスや境界効果は未解明な部分が多い。長期的なモニタリング体制をつくり研究者同士の情報交換を続けていくことが必要である。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.18960/seitai.63.2_261
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009631432
CiNii Books
http://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00193852
ID情報
  • DOI : 10.18960/seitai.63.2_261
  • ISSN : 0021-5007
  • CiNii Articles ID : 110009631432
  • CiNii Books ID : AN00193852
  • identifiers.cinii_nr_id : 9000240251362

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