MISC

筆頭著者
2015年3月

太原盆地における冬小麦作付面積の変化からみた現代中国農村の土地利用粗放化に関する一考察

日本地理学会発表要旨集
  • 原 裕太
  • ,
  • 淺野 悟史
  • ,
  • 西前 出

87
開始ページ
p.231
終了ページ
DOI
10.14866/ajg.2015s.0_100142
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

1990年代以降、中国では経済成長にともなって耕地面積が減少し続け、とりわけ2000年代前半には高い減少率を示した。その後、2005年以降の耕地面積はほぼ横ばいで推移しているが、それは政府が12,000万haの耕地防衛線の維持を至上命題としているためである(元木2013: 149)。しかし、これが必ずしも農業の安定を意味するわけではなく、田島(1999)は、農地の農外転用は規制の対象であるため、作付面積の縮小は主として耕地利用率の低下によって説明される、とした上で、多毛作を例に「地域の労働市場が拡大し、労賃水準が高まっている大都市近郊や沿岸地域の農村では、すでに農業への労働投入が低下し、土地利用の粗放化が始まっている。内陸地域の農村において同様の傾向が生じることは時間の問題」と指摘した。中国北部では、明中期以降、冬作として小麦が作付されてきたが(李1999)、北京郊外では1990年代から2003年にかけて、冬小麦の作付面積が大幅に減少し、冬季裸地面積が増加している。穀倉地帯である華北平原でも、東部を中心に冬小麦の減少傾向が強いことがわかっている(内田2007: 172-174)。これらの地域は,いずれも沿岸地域および大都市近郊であり,かつ気温の低い二年三熟耕作地域である。 <br>本研究では、内陸部に位置する山西省中央部・太原盆地(二年三熟耕作地域)においても上述のような冬小麦作付面積の変化が、顕著になっているかについて検証した。冬小麦の生育に必要な温量指数を算出した上で、現地観察を基に冬季のLandsat画像(8年分8枚)から、太原盆地の作付地と休耕地を抽出した。比較対象として南接する同省の晋南盆地(一年一熟耕作地域)においても同様の作業を行った。また、統計資料の冬小麦の播種面積データを確認し、抽出面積の整合性について確認した。 <br>その結果、2005年以降も太原盆地では冬小麦の作付面積が減少傾向にある一方、晋南盆地では変化はないことがわかった。しかし、太原盆地では、冬小麦の裏作として夏場に栽培されるトウモロコシ等の耕地面積に減少傾向はないことから、北京郊外の例と同様、都市的土地利用や経済作物への転換だけが冬小麦作付面積減少の主要因ではないことも確認された。 以上より、都市近郊や沿岸地域において指摘されてきた土地利用の粗放化が、より内陸部に位置する太原盆地でも観察されることがわかった。西北地域の各県城でも最近10年間の都市拡大は著しく、中国の経済成長によって、より耕作条件の良い晋南盆地や内陸諸平地にも、多毛作農業への影響が波及する可能性を示唆している。また、山西省における冬季の多毛作変動は、中国の都市経済発展に始まった構造変化が都市近郊や沿岸地域の農村以外でも進行し続けていることを示している。

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DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2015s.0_100142
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005489877
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2015s.0_100142
  • CiNii Articles ID : 130005489877
  • identifiers.cinii_nr_id : 9000347218234

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