講演・口頭発表等

2021年7月1日

正常上⽪分化には表層アクチンの収縮と細胞内カルシウム流⼊が必要である

第73回 日本細胞生物学会大会
  • 猪子 誠人

記述言語
日本語
会議種別
シンポジウム・ワークショップ パネル(公募)

近年、Rho-kinase阻害剤やBMP-SMAD阻害剤が上皮分化を阻害することがわかり、これまで難しかった正常上⽪幹細胞の培養増殖が可能になりつつある(Mou Hら,Cell Stem Cell. 2016;19:217-231他)。これを上皮分化過程の研究に応用するため、発表者は検体に由来する正常乳腺あるいは正常前立腺上皮幹細胞を分化させる2つの方法を培養⽫上で確⽴した。その正当性は、Δp63α、Axin2、Claudin4などの未分化・分化マーカーで確認した。このうち今回は、阻害剤の除去による単層上⽪への分化過程を主に分子形態学的に解析した。
その結果、発表者は上⽪分化が表層アクチンによる⼀過性の細胞収縮を必要とすることを発⾒した。このことは、アクチン重合剤あるいはその阻害剤によって確認した。同時に、この上皮分化はカルシウムイオンとジアシルグリセロールを必要とすることが、これらの添加実験によって明らかになった。
このような細胞表層の侵害刺激、細胞内カルシウム流入、そしてジアシルグリセロール応答性を結び付けるものは受容体活性化カルシウムチャネルとして最近注目を集める「TRPCファミリー」に含まれる。そのうち上皮特異的な発現をPublic data (Human Protein Atlas)で示すTRPC6に着目し解析を進めた。その結果、TRPC6ノックダウン細胞では上皮分化マーカーであるClaudin4の減少を認めた。逆にTRPC6の強制発現はClaudin4の蛋白レベルでの上昇を認めた。
以上のことから、これまで謎の多かった上皮分化には「表層アクチンの収縮とカルシウムイオンの流入が必要」で、その一部はTRPC6で説明できると考えた。本結果は速やかにまとめると共に、今後は上流のGPCRや下流のシグナル・転写因子について分子解析を深める。また、生体内にみられるような分化組織の階層構造やその異常である癌についても、検体を用いた解析で掘り下げていく予定である。

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