MISC

2016年

アスファルト舗装の二酸化炭素吸収ポテンシャルの試算

日本地理学会発表要旨集
  • 木田 仁廣
  • ,
  • 川東 正幸

2016
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開始ページ
100095
終了ページ
100095
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2016a.0_100095
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

はじめに<br> 現在、地球人口の50%が都市に居住しており、その割合は2050年には3分の2に達すると予測されている。都市域は周辺環境に様々な影響を与えるが、快適で便利な居住地を供給するために、都市面積は拡大し続けている。特に輸送手段の確保やインフラストラクチャー整備のため、道路の建設は都市の発展には不可欠である。これまでに、地球温暖化の進行に対して森林、農地、都市緑地やゴルフ場などの開発地について二酸化炭素固定量が評価されてきたが、舗装された土地はその評価の対象外になっている。しかし、道路舗装にはアルカリ性の材料が使われており、二酸化炭素が吸収されると考えられる。そこで、本研究はアスファルト舗装のアスファルト層に着目し、道路による二酸化炭素吸収ポテンシャルを試算し、ほかの土地利用の吸収量と比較することにより、道路の二酸化炭素吸収を評価することを目的とした。<br>研究方法<br> 一般的なアスファルト舗装の構造は、アスファルテン、骨材となる砕石、フィラーの混合物である不透水性のアスファルト層、および砕石を用いた路盤層で構成される。アスファルト層の重量構成比はアスファルテンが約5%、骨材が約90%、フィラー約5%が一般的であり、アスファルト層の種類により砕石とフィラーの割合が変化する。道路の道幅と舗装の厚みは予測される交通量や交通荷重、制限速度に従い設計される。一般的な片側1車線の道路では5cmのアスファルト表層と5cmのアスファルト基層が設けられる。また、交通量の少ない車道や歩道には基層を設けず、5cmの表層のみの簡易舗装を施すことが多い。つまり、舗装材料や地盤強度を同一と仮定すれば道路幅のデータからアスファルト層の厚さが推定できる。国土交通省発行の道路統計年報の道路部面積と道路実延長データを用い各都道府県の平均道路幅を算出し、その値を元にアスファルト層の厚さを推定し、道路面積と掛け合わせ、各都道府県のアスファルト層の体積を試算した。<br> 道路からアスファルト層の試料を採取し、骨材単位にまで砕いてpH(H2O)を測定した。さらに微粉砕したアスファルト試料を重量比で80倍量の0.1M塩酸と反応させ、その塩酸消費量を水酸化ナトリウム溶液で逆滴定により求め、アスファルト試料の二酸化炭素吸収容量として算出した。また、アスファルトの比重も求めた。<br> 算出したアスファルト層の比重から各都道府県のアスファルト層の重量を推定し、実験により求めたアスファルト試料の二酸化炭素吸収容量を用いて、各都道府県のアスファルト層による二酸化炭素吸収ポテンシャルを試算した。<br>結果と考察<br> 全国の道路面積と実延長から求めた平均の道路幅は約6mとなり、この道幅は一般的な2車線道路の幅と近い値であった。このことからアスファルト層の平均層厚を10cmとして計算を行い、全国のアスファルト層の体積は約7.6&times;1012cm3となった。また、実験からアスファルト塊の比重は約2.1g/cm3、二酸化炭素吸収容量は94mg-CO2/gと求められた。これらのデータから全国のアスファルト層の二酸化炭素吸収ポテンシャルを炭素換算で試算すると約1.4&times;103Gg -CO2となった。<br> 全国のアスファルト層の二酸化炭素吸収ポテンシャルは全国の森林が年間に吸収する二酸化炭素量(7.7&times;104Gg -CO2)の約50分の1、農地の年間排出量(4.5&times;102Gg -CO2)の約3倍に相当した。アスファルト層による二酸化炭素の吸収はアスファルト層を構成するフィラーの石灰成分との炭酸塩の形成による無機態炭素の吸収であり、光合成により有機態として炭素を固定する森林の二酸化炭素吸収とは異なり、石灰成分がすべて炭酸塩になった時点で二酸化炭素の吸収が行われなくなる。実験で測定したアスファルト層のpHは平均9.3を示しており、生石灰のpHは12を超え、炭酸カルシウムの平衡pHは約8.3であることから、実際の二酸化炭素吸収量は算出値よりも低いと推察される。また、アスファルト層のpHは舗装されてから時間が経過すると8.3に近づく傾向が見られ、実際にアスファルト層により二酸化炭素が吸収されていることが示唆された。<br> 歩道に用いられる透水性舗装や舗装に生じた亀裂を通じてアスファルト層より下層に水が浸透すると考えられる。アルカリ性材料による二酸化炭素の吸収は水を介した反応であり、道路を二酸化炭素吸収源として考慮する場合、アスファルト層だけでなく、直下のコンクリート再生砕石が用いられる路盤層やその下の支持基盤である鉱質土壌による二酸化炭素の固定も考慮する必要がある。本研究から、現在日本の二酸化炭素吸収の評価対象外である道路も二酸化炭素の吸収ポテンシャルは低いものではなく、考慮する価値があるといえる。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2016a.0_100095
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005279791
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2016a.0_100095
  • CiNii Articles ID : 130005279791

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