MISC

2013年5月

マカクサル皮質脊髄路損傷後の機能回復に伴う運動関連領野の変化 腹側運動前野の皮質下投射ニューロンにおけるSPP1 遺伝子発現上昇

日本理学療法学術大会
  • 山本 竜也
  • ,
  • 肥後 範行
  • ,
  • 佐藤 明
  • ,
  • 西村 幸男
  • ,
  • 大石 高生
  • ,
  • 村田 弓
  • ,
  • 吉野 紀美香
  • ,
  • 伊佐 正
  • ,
  • 小島 俊男

2012
0
開始ページ
48100669
終了ページ
48100669
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2012.0.48100669.0
出版者・発行元
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION

【はじめに、目的】皮質脊髄路は大脳皮質(特に第一次運動野:M1)から脊髄へと情報を送る経路である。この経路に損傷を受けると運動麻痺が生じる。しかし、このような麻痺は回復することがある。マカクサルを用いた行動学および脳機能画像解析により、皮質脊髄路を損傷した後に手指の把握運動が回復すること、その背景に大脳皮質運動関連領域(特に損傷対側腹側運動前野【PMv】)による機能代償があることが明らかにされてきた。すなわち、損傷を受けた経路自体が再生しなくても、直接的な損傷の影響を免れた大脳皮質運動関連領域が代償的に機能することにより、運動機能が回復すると考えられる。しかし、このような機能代償がどのような分子的背景により制御されているのかは不明である。そこで本研究では、健常マカクサル皮質脊髄路ニューロンで特異的な発現を示す SPP1(secreted phosphoprotein 1)遺伝子に着目し、皮質脊髄路損傷前後のM1 とPMvにおける遺伝子発現の変化を、組織学的手法を用いて検証した。【方法】健常マカクサル3 頭(体重:3.0-8.5kg)と片側皮質脊髄路損傷マカクサル9 頭(2.7-4.2kg)を用いた。損傷は第4/5 頚髄外側皮質脊髄路領域(左側)に作成した。手指の把握運動機能を評価するために、目の前にある小さな餌をつまみ取る行動課題をマカクサルに学習させた。人差し指と親指との間で摘む把握(精密把握)を用いて餌を落とさずに食べることを課題成功の条件とした。損傷後2 週間(4 頭)、1 ヵ月(1 頭)、3 ヵ月(4 頭)に還流固定を行い、組織を採取した。凍結切片作成後、SPP1 mRNA発現を可視化するために、マカクサル特異的プローブを用いてIn situ ハイブリダイゼーション(ISH)を行った。また、皮質下投射ニューロンでSPP1 が発現することを確認するために、SMI32(皮質下投射ニューロンのマーカー分子)に対する免疫組織化学とSPP1 mRNAに対するISHとを用いた二重染色実験を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は独立行政法人産業技術総合研究所(AIST) の動物実験委員会による承認を得て行われた。AISTが規定する動物実験要項はアメリカ国立衛生研究所により制定された動物実験の倫理基準に準拠する。北米神経科学学会により承認されたPolicies on the Use of Animals and Humans in Neuroscience Researchに従い、実験により与える苦痛を最小限にするなど生命倫理に対して十分な対策を講じた。【結果】健常マカクサルにおいて、SPP1 はM1(特に皮質脊髄路ニューロン)で顕著な発現を示し、PMvではほとんど発現しなかった。一方、損傷後のマカクサルにおいてはこの発現傾向が逆転していた。すなわち、SPP1 は損傷対側(右側)M1ではほとんど発現しなかったが、損傷対側(右側)PMvでは顕著な発現を示した。この損傷対側(右側)PMvにおけるSPP1 陽性細胞は、SMI32 陽性かつ比較的大型の細胞体を有するニューロンであった。また、損傷対側(右側)PMvでSPP1 陽性細胞数が多い個体ほど機能回復レベルが高いという正の相関が見られた。【考察】本研究結果は、損傷対側PMvの皮質下投射ニューロンにおけるSPP1 発現上昇が皮質脊髄路損傷後の運動機能回復に関与することを示唆する。皮質から脊髄運動ニューロンへ直接投射する皮質脊髄路が損傷されても、損傷による直接的な影響を免れた他の並行経路(上位脊髄【脊髄固有ニューロン】や脳幹【赤核脊髄路ニューロン・網様体脊髄路ニューロン】を介した経路など)が失われた機能を代償すると考えられている。PMvにはこのような並行経路を形成する皮質下投射ニューロンが存在する。また、SPP1 はこれまでに速い伝導速度を持つニューロンの形成に重要な役割を持つと我々が示唆してきた遺伝子である。したがって、SPP1 はPMvから皮質下へ投射する経路の伝導速度の増加に貢献し、損傷後の脳幹や脊髄における情報処理の制御に関与すると推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究成果とこれまでの行動・脳領域レベルでの検証から得られた知見とを統合することにより、損傷後の可塑的な変化に対するレベル縦断的な理解につながる。このような知見はリハビリテーションにおけるエビデンスを確立するうえで重要な基礎資料になる。さらに本研究成果の発展により、脊髄・脳損傷後の機能回復を促進させ、リハビリテーションの効果をサポートする作用を持つ薬剤や遺伝子治療の開発に繋がると期待される。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2012.0.48100669.0
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004585126
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2012.0.48100669.0
  • ISSN : 0289-3770
  • 医中誌Web ID : 2014278268
  • CiNii Articles ID : 130004585126
  • identifiers.cinii_nr_id : 9000258379600

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