本研究はエポキシ樹脂およびエポキシ樹脂を母材とする粒子充填複合材料の力学的特性の長時間および広範囲な温度特性に及ぼす硬化状態の影響を明らかにすることを目的とした.
試料としてエポキシ樹脂の中でも標準的なビスフェノールA形樹脂を選択して様々な温度,時間の硬化条件で試料を作成した.それぞれの試験片の熱粘弾性特性を測定し、ガラス転移温度,フラジリティーを決定した.ラマン分光測定によりガラス転移温度が硬化度を示すことを明らかにした.これにより,ほぼ硬化が飽和した後も均質性を示すフラジリティーが小さくなることがわかった.
次に室温におけるエポキシ樹脂の弾性係数および破壊靭性値を測定した.弾性係数は,樹脂がほぼ硬化していれば,ほとんど変化せず,破壊靭性値は硬化条件に強く依存する結果となった.硬化状態との相関関係よりガラス転移温度が400K程度となっていれば,フラジリティーが小さい不均質の方が破壊靭性値が大きく向上することが判明した.
次に溶融シリカ粒子を充填させたビスフェノール樹脂についても同様の検討を行った.この結果,ガラス転移温度が大きく,フラジリティーが小さい試料の方が,破壊靭性値が増加し,エポキシ樹脂単体の場合と同じ傾向が見られ,力学的特性との相関のある硬化状態を示すパラメータとしてガラス転移温度およびフラジリティーの有効性が確認された.
さらにエポキシ樹脂および溶融シリカの破壊靭性値の温度・時間依存性について測定した.エポキシ樹脂・シリカ粒子充填エポキシ樹脂とも熱粘弾性特性から得られる温度.時間換算則に従うことが明らかとなった.またガラス転移温度が高く,フラジリティーが小さい試料の方がガラス転移温度付近の破壊靭性値が顕著に高くなることが判明した.さらに破壊靭性値の温度・時間依存性の測定結果に基づいてき裂を有する円筒の破壊の予測を行った.
優れた力学的特性を得るためにはガラス転移温度およびフラジリテイーが有用であることから,それらのパラメータにより適切な硬化条件を選択することが可能であることを提案した.