MISC

査読有り
2010年

関節角度の違いによる股関節周囲筋の発揮筋力の変化:数学的モデルを用いた解析

日本理学療法学術大会
  • 小栢 進也
  • ,
  • 建内 宏重
  • ,
  • 市橋 則明

2009
開始ページ
A2Se2029
終了ページ
A2Se2029
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2009.0.A2Se2029.0

【目的】筋が収縮すると関節は回転力を生み出し、筋力として発揮される。昨年我々は数学的モデルを用いて股関節の関節角度変化によるモーメントアームの変化を報告し、筋の発揮トルクが関節角度により大きく異なる可能性を示した。筋の発揮トルクはモーメントアームだけでなく、筋線維長や筋断面積などに影響を受けるとされており、本研究では股関節屈曲角度変化に伴う股関節周囲筋の屈伸トルクを数学的モデルにより検討した。<BR>【方法】股関節運動に作用する15筋を対象とし、股関節は円運動を行うとした。モーメントアームおよび筋・腱の線維長はKlein Horsmannらの筋の起始停止位置から算出した。大殿筋下部線維、大腿筋膜張筋は、起始から停止までを直線的に走行するのではなく、途中で骨や軟部組織に引っかかる走行変換点を考慮したモデルを用いた。なお、腸腰筋はGrosse らが提唱したwrapping surfaceの手法を用いた。この方法は走行変換点の骨表面を円筒状の形状ととらえて計算する方法で、筋は起始部から円筒に向かい、その周囲を回って走行を変え、停止に向かうとする。また、生理学的断面積・羽状角・筋や腱の至適長はBlemkerら、筋の長さ張力曲線はMaganarisらの報告を用いた。なお、本研究では関節運動によって、モーメントアームと筋線維長は変化するとし、生理学的断面積、羽状角は関節運動によって変化しないものとした。解剖学的肢位での起始・停止の位置から、股関節の角度に応じた起始の座標を算出した。次に、起始停止から筋の走行がわかるため、各筋のモーメントアームを求めた。このモーメントアームと筋の走行から、単位モーメント(筋が1N発揮した時の関節モーメント)を算出した。さらに筋の長さ張力曲線から想定される固有筋力、生理学的断面積、羽状角の正弦と単位モーメントとの積から各筋が発揮できる屈伸トルクを算出した。<BR>【説明と同意】本研究は数学的モデルを用いており、人を対象とした研究ではない。<BR>【結果】腸腰筋は26.3Nm(伸転20°)、23.7Nm(屈曲0°)、23.6Nm(屈曲30°)、26.1Nm(屈曲60°)の屈曲トルクを有し、伸展域と深い屈曲位で高い値を示した。一方、大腿直筋は10.5Nm(伸転20°)、18.4Nm(屈曲0°)、23.6Nm(屈曲30°)、28.1Nm(屈曲60°)であり、50°付近で最も高い屈曲トルクを有した。伸転筋に関してはハムストリングス全体で、11.2Nm(伸転20°)、42.0Nm(屈曲0°)、70.6Nm(屈曲30°)、74.2Nm(屈曲60°)と、伸展域では伸展トルクは小さいが、屈曲域になると急激にトルクは大きくなる。一方、大殿筋は20.9Nm(伸転20°)、29.3Nm(屈曲0°)、35.4Nm(屈曲30°)、29.0Nm(屈曲60°)と、ハムストリングスと比較して伸展域では大きな伸展トルクを発揮するが、屈曲位では半分以下のトルクしか持たない。また、内転筋は伸展域で屈筋、屈曲域で伸筋になる筋が多かった。<BR>【考察】腸腰筋は伸展するとモーメントアームが減少して屈曲トルクが弱くなると考えられるが、wrapping surfaceの手法を用いるとモーメントアームは増加し、筋も伸張されるため、強い発揮トルクを発生できることが判明した。一方、深い屈曲位では腸腰筋が腸骨から離れて走行変換点を持たなくなり、モーメントアームの増加により発揮トルクが増加すると考えられる。腸腰筋は走行変換点を持つことで二峰性の筋力発揮特性を持つ。これに対し、大腿直筋は主にモーメントアームが屈曲50°付近でモーメントアームが増加し、強いトルクを発揮すると思われる。また、ハムストリングは坐骨結節、大殿筋は腸骨や仙骨など骨盤上部から起始する。このため、浅い屈曲位から骨盤を後傾(股伸展)すると坐骨結節は前方へ、大殿筋起始部は後方へと移動する。よってハムストリングはモーメントアームが低下し、伸展位では大殿筋の出力が相対的に強くなると思われる。一方、内転筋群は恥骨や坐骨など骨盤の下部から起始し、大腿骨に対しほぼ平行に走行して停止部に向かう。よって、解剖学的肢位では矢状面上の作用は小さいが、骨盤を前傾(股屈曲)すると起始部は後方に移動し、筋のモーメントアームは屈曲から伸展へと変わるため、筋の作用が変化する。特に大内転筋は断面積が大きく、強い伸展トルクを発揮できると思われる。<BR>【理学療法研究としての意義】解剖学的肢位とは異なる肢位での筋の発揮トルクを検討することは、筋力評価や動作分析に有用な情報を与える。特定の関節肢位で筋力が低下している場合、どの筋がその肢位で最も発揮トルクに貢献するかがわかれば、機能が低下している筋の特定ができる。また、内転筋のように、前額面上の運動を行う際に矢状面上の作用を伴う場合、内転筋の中でもどの筋が過剰に働いているのかを検討することも可能である。このように本研究で行った数学的モデルによる筋の発揮トルク分析は、理学療法士にとって重要な筋の運動学的知見を提供するものと考える。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2009.0.A2Se2029.0
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004581566
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2009.0.A2Se2029.0
  • CiNii Articles ID : 130004581566

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