MISC

査読有り
2010年

スタティック・ストレッチングが腓腹筋筋腱複合体に与える影響について

日本理学療法学術大会
  • 中村 雅俊
  • ,
  • 池添 冬芽
  • ,
  • 武野 陽平
  • ,
  • 市橋 則明

2009
開始ページ
A2Se2037
終了ページ
A2Se2037
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2009.0.A2Se2037.0

【目的】<BR> スタティック(静的)・ストレッチング(Static Stretching:以後SS)は反動をつけずにゆっくりと行うため筋損傷などを起こす可能性が低く安全であり、関節可動域の改善や拘縮の予防を目的として広く用いられている。SSの効果として関節可動域や柔軟性の改善に関しては古くから諸家によって報告されている。この関節可動域や柔軟性の改善にはSSによって1b抑制などで代表される脊髄興奮水準が抑制されることで引き起こされる筋緊張の低下が関連しているとされていたが、近年では筋腱複合体(Muscle Tendon Unit:以下MTU)の粘弾性の変化との関連性が注目されている。しかし、SSがMTUに及ぼす影響について、SSの持続効果も含めて詳細に検討している報告は見当たらない。<BR>本研究の目的は腓腹筋に対するSSがMTUに与える即時効果および持続効果について明らかにすることである。<BR>【方法】<BR> 対象は神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常若年男性9名(平均年齢21.8±1.0歳、身長170.8±6.1cm、体重62.3±7.7kg)とし、SSの対象筋は利き足側(ボールを蹴る側)の腓腹筋とした。対象者は膝関節完全伸展位でベッド上に腹臥位を取り、足関節を等速性筋力測定装置Myoret(川崎重工業社製)のフットプレートに固定した。全ての被験者が可能であった足関節背屈0°から背屈30°まで1°/秒の速度で他動的に動かしときの足関節底屈方向の受動的トルクを5°ごとに測定した。また、同時に2台の超音波診断装置(東芝社製およびGE Healthcare社製)を用いて腓腹筋の筋腱移行部の移動量(ΔMuscle Tendon Junction:以下ΔMTJ)および腓腹筋筋腹の筋厚と羽状角を測定した。先行研究に基づき受動的トルクの変化量とΔMTJの比よりMTUの硬度(以下スティフネス)、筋束長は以下の次の式、筋束長=筋厚/Sinθ(θは羽状角)で算出した。受動的トルクはMTU全体の抵抗性、ΔMTJは他動的に動かされた時のMTUの伸張されやすさを示している。これらの指標から算出されたMTUのスティフネスはMTU全体の柔らかさを示す指標であり、値が低いほど弱い外力で伸張することが可能で、一般的に柔軟性が高いことを意味する。なお、測定にあたっては電極を腓腹筋の筋腹に貼付し、表面筋電図(Noraxon社製)用い、防御性収縮が起きていないことを確認しながら行った。<BR> SSはMyoretを用い上記の測定と同様の肢位で行い、対象者が伸張感を訴え、痛みが生じる直前の背屈角度で5分間のSSを実施した。受動的トルクと超音波装置における測定はSS開始前(以下SS前)とSS終了直後(以下SS直後)、終了10分後(以下10分後)に実施した。<BR> 統計学的処理はSS前とSS直後、10分後の各角度における受動トルク、ΔMTJ、腓腹筋のスティフネス、筋束長の比較をFriedman検定およびScheffeによる多重比較を用いて行った。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には本研究の内容を十分に説明し、書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> 全ての試行において筋電図学的活動は認められなかった。受動的トルクは、全ての角度においてSS前と比較してSS直後と10分後では有意に減少した。最終角度(30°)における受動的トルクはSS前が44.8Nm、SS直後が38.8Nm、10分後が39.1Nmであった。ΔMTJ に関してSS直後は背屈角度10°ではSS前と比較して、また背屈角度15°から30°においてはSS前と10分後と比較して有意に増加した。背屈30°におけるΔMTJはSS前が1.08cm、SS直後が1.47cm、10分後が1.21cmであった。<BR> また、MTUのスティフネスに関してSS前は44.7Nm/cm、SS直後は26.2Nm/cm、10分後は33.1Nm/cmであり、SS直後はSS前や10分後と比較して有意に減少し、10分後はSS前よりも有意に減少した。<BR>筋束長は全ての角度において有意な変化は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 本研究の結果、SS直後では受動的トルク、すなわちMTUの抵抗性が全可動域にわたって減少した。また、SS直後にΔMTJの増加、MTUのスティフネスの減少がみられ、さらに10分後においてもSS前と比較して受動的トルクとMTUのスティフネスが有意に減少した。しかし、全ての条件間で筋束長には有意な変化は認められなかった。これらのことより、5分間のSS実施により筋束の伸張性が向上するのではなく、MTU全体の粘弾性が変化した結果、MTUのスティフネスが減少する可能性が示唆された。また、SS終了10分後でもMTUのスティフネスが減少する効果が継続する可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究より1回5分間のSS実施により、SS終了直後だけではなく、終了10分後においてもMTUのスティフネスが減少することが明らかになり、SSは筋線維を伸張するのではなく、周囲の軟部組織の粘弾性に変化を及ぼすことが示唆された。<BR>

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2009.0.A2Se2037.0
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004581574
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2009.0.A2Se2037.0
  • CiNii Articles ID : 130004581574

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