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査読有り
2012年

人工股関節全置換術術後患者では多裂筋筋活動のタイミングが遅延する:─股関節伸展運動における筋活動の分析─

日本理学療法学術大会
  • 建内 宏重
  • ,
  • 塚越 累
  • ,
  • 福元 喜啓
  • ,
  • 黒田 隆
  • ,
  • 宗 和隆
  • ,
  • 秋山 治彦
  • ,
  • 市橋 則明

2011
開始ページ
Ca0238
終了ページ
Ca0238
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2011.0.Ca0238.0

【はじめに、目的】 変形性股関節症患者においては、長年にわたる股関節障害により二次的に脊柱にも問題が生じることがあり、このような股関節と脊柱との関連性はhip-spine syndromeとして知られている。股関節の構築学的異常は人工股関節全置換術(THA)により再建されるが、術後においても股関節以外の問題は残存することが多く、脊柱の機能障害もその一つである。脊柱・骨盤の安定性は体幹筋の協調的な作用によりもたらされ、股関節運動の基盤となる。したがって、体幹筋機能に異常をきたすと、脊柱の安定性低下のみならず股関節の機能発揮を阻害する可能性があり、THA術後患者において体幹筋機能は極めて重要である。しかし現在まで、股関節疾患を対象とした体幹筋機能の分析は行われておらず、どのような問題を有しているか明らかでない。本研究の目的は、THA術後患者における体幹筋機能障害を筋活動量および筋活動タイミングの側面から明らかにすることである。【方法】 対象は、THA術後患者の女性21名(年齢;62.5 ± 6.6歳)と健常女性12名(年齢;63.3 ± 5.1歳)とした。患者は、術後6カ月以上が経過し股関節以外の部位に疾患を有さない者とした。健常者は、整形外科的疾患および神経学的疾患を有さない者とした。測定課題は、腰椎・骨盤および体幹筋の病態評価として一般に用いられる腹臥位での股関節伸展運動(屈曲30度から0度まで)とした。左右2光源からなるLED信号装置(被験者の頭部前方約1mに設置)の点灯に対して、点灯側の股関節をできるだけ速く伸展させるよう指示した。LEDの左右点灯の順は無作為として両側下肢の運動を測定し、患者では患側、健常者では非利き脚側の5試行を分析に用いた。なお、股伸展可動域が0度未満の症例は含まれていなかった。測定には、Noraxon社製表面筋電図(サンプリング周波数:1000Hz)を用いた。測定筋は、股伸展側の腰部脊柱起立筋(ES)と多裂筋(MF)、大殿筋(Gmax)、半腱様筋(ST)とした。なお、腹斜筋群と腹横筋は股伸展運動時の筋活動が最大筋力の5%未満であることが先行研究で確認されたため、測定から除外した。筋活動量については、各筋の筋活動開始から運動終了時点までの間の平均筋活動量を求めた。筋活動量の正規化は、患者では最大筋力発揮が困難であるため、両群とも3秒間の準最大筋力発揮時(ES、MF、Gmax;腹臥位、両膝90度屈曲位での自動股関節伸展:ST;腹臥位、自動股関節伸展)の筋活動量を用いて正規化した。筋活動開始のタイミングは、累積和法を用いて各筋の筋活動開始時点を同定し、STとの時間差を求めた。また、LED点灯からST活動開始までの時間(反応時間)を求めた。加えて、下肢の運動速度を記録するために、動作解析装置を用いて膝関節外側に貼付した反射マーカーの最大速度を測定した。5試行の平均値を用いて統計解析を行った。各変数の正規性の検定(Shapiro-Wilk test)を行ったうえで、Student's t-testもしくはMann-Whitney testを用いて、両群の比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 倫理委員会の承認を得て、対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し、参加への同意を書面で得た。【結果】 反応時間および下肢運動速度に関しては、両群で有意な差を認めなかった。筋活動量は、STにおいて患者の方が健常者よりも有意に高い筋活動量を示したが、ES、MF、Gmaxでは有意な差を認めなかった。筋活動のタイミングは、MFのみ患者の方が健常者よりも有意に筋活動が遅延しており(STに対するMFの活動開始:患者−1.2 ± 21.6 ms、健常者−21.7 ± 23.4 ms)、健常者では全例がSTよりもMFの活動が早期に生じていたが、患者では48%の症例においてSTとMFの筋活動順序が逆転していた。【考察】 体幹筋においては、THA術後患者においてMFの筋活動タイミングが遅延していることが明らかとなった。MFは腰椎・骨盤の安定化作用を有すると考えられているため、MFの筋活動の遅延は、運動開始時において股関節周囲筋の起始部である腰椎・骨盤の安定化が十分に得られていない可能性を示していると考えられる。THA術後の理学療法において、多裂筋の機能に着目することの重要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、THA術後患者における多裂筋の筋活動タイミングの異常を明らかにした研究であり、THA術後患者における体幹の運動療法に関して重要な示唆を与えると考えられる。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2011.0.Ca0238.0
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004692912
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2011.0.Ca0238.0
  • CiNii Articles ID : 130004692912

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