MISC

査読有り
2012年

ミリタリープレスにおける肩甲帯の動態、筋活動の解析

日本理学療法学術大会
  • 大塚 直輝
  • ,
  • 建内 宏重
  • ,
  • 永井 宏達
  • ,
  • 松村 葵
  • ,
  • 市橋 則明

2011
開始ページ
Ce0109
終了ページ
Ce0109
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2011.0.Ce0109.0

【はじめに、目的】 ミリタリープレス(Military press:以下MP) は臨床現場で一般的に行われているリハビリテーションプログラムの1 つであり,肘関節屈曲位で肩関節前方に重錘を保持した肢位を開始肢位として,肘関節伸展しながら肩関節を挙上する動作である。MPは多くの先行研究でリハビリテーションプログラムとしての有用性が示されており,臨床現場では通常の挙上に比べてMPでより容易に拳上可能となることが経験される。しかしながら,通常の拳上に対してMP時の肩甲帯の運動学的,筋電図学的変化について詳細に分析した研究はない。肩関節疾患患者のリハビリテーションでは肩甲骨・鎖骨運動の誘導や,肩関節周囲筋の賦活に焦点を当てることが多く,MP時の運動学的、筋電図学的特徴を知ることは、運動療法の中でのMPの適応を明らかにするために重要な情報となりうる。本研究では,MP時の肩甲帯の動態と肩関節周囲筋の筋活動の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男性 16名(21.8 ± 1.1歳)とし、測定側は利き手側とした。測定には 6 自由度電磁センサー(POLHEMUS 社製, LIBERTY)と表面筋電図(Noraxon社製, TeleMyo2400)を用い,これらを同期して上肢拳上時の肩甲帯の運動学的データと肩関節周囲筋の筋電図学的データを収集した。筋電図は三角筋、僧帽筋上部・中部・下部、前鋸筋に貼付した。拳上方法は上肢矢状面拳上(以下:SE)とMPとし、それぞれに無負荷条件と2 kg重錘負荷条件を設定した。測定は椅坐位にて4秒間で下垂位から最大拳上する動作をそれぞれ5回ずつ行い,間3回の平均値を解析に用いた。運動学的データは胸郭に対しての上肢拳上角度,肩甲骨外旋・上方回旋・後傾角度,鎖骨拳上・後方並進角度を算出し,筋電図学的データは最大等尺性随意収縮時の筋活動を100%として正規化した。また負荷による影響を除外するため,上肢拳上の主動作筋である三角筋の筋活動に対する僧帽筋上部・中部・下部、前鋸筋筋活動の比を算出した。解析区間は上肢拳上30 - 120°とし、30°より10°毎の肩甲骨・鎖骨角度、筋活動比を算出した。なお筋活動比は,各解析時点の前後100 msec間の平均値とした。統計学的処理には肩甲骨・鎖骨角度および,各筋の筋活動比を従属変数とし,拳上方法(SE, MP)、負荷(無負荷, 2 kg)、上肢拳上角度(30 - 120°)を三要因とする反復測定三元配置分散分析を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,実験の目的および内容を口頭,書面にて説明し,研究参加への同意を得た。【結果】 肩甲骨外旋角度は,負荷に関わらず拳上初期~中期でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01,拳上方法・角度間交互作用:p < 0.01)。上方回旋角度は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた (挙上方法主効果: p < 0.01)。後傾角度は,負荷に関わらず拳上中期でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01,拳上方法・角度間交互作用:p < 0.01)。鎖骨後方並進角度は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01)。鎖骨拳上角度では,挙上方法による有意な違いがみられなかった。三角筋に対する僧帽筋上部,前鋸筋の筋活動は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた (挙上方法主効果: p < 0.05)。三角筋に対する僧帽筋中部・下部の筋活動では,それぞれ挙上方法による有意な違いがみられなかった。【考察】 本研究の結果,MPではSEと比較して、肩甲骨外旋・上方回旋・後傾と鎖骨後方並進が増加することが明らかとなった。またMPではSEと比較して,三角筋に対する僧帽筋上部と前鋸筋の筋活動が増加することが明らかとなった。肩甲骨・鎖骨運動と肩甲骨周囲筋の筋活動に関して負荷の有無による差は見られなかったため,上記の運動学的・筋電図学的変化はMP時に特異的な運動・筋活動様式であることが考えられる。前鋸筋は特に肩甲骨上方回旋に関わる筋であり,さらに前鋸筋の活動が肩甲骨外旋や後傾にもつながるとされている。また僧帽筋上部の活動は鎖骨後方並進を生み出すとされている。MPでは負荷に対して僧帽筋上部と前鋸筋の筋活動が増加したため、肩甲骨外旋・上方回旋・後傾運動と鎖骨後方並進が増加したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 上肢拳上時の肩甲骨外旋・上方回旋・後傾角度、鎖骨後方並進角度の減少は、様々な肩関節疾患患者で見られる現象である。本研究結果より、MPは前述の特徴を示す肩関節疾患患者の肩甲骨・鎖骨運動を誘導するトレーニングとして有用であると考えられる。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2011.0.Ce0109.0
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201202252228732911
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004693194
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2011.0.Ce0109.0
  • ISSN : 0289-3770
  • J-Global ID : 201202252228732911
  • CiNii Articles ID : 130004693194

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