共同研究・競争的資金等の研究課題

2000年4月 - 2002年3月

敦煌写本の書誌についての調査研究 ―三井文庫所蔵本を中心として―

日本学術振興会  科学研究費補助金  
  • 赤尾栄慶

配分額
(総額)
3,200,000円
(直接経費)
0円
(間接経費)
0円
資金種別
競争的資金

三井文庫所蔵の敦煌写本112件について、それらの料紙・書風・字体や書写の形式を調査し、書写年代に問題のない写本については、一紙ごとの法量や界高・界巾など採録可能な書誌データを詳細に収集した。

その結果、唐時代八世紀前後の写本に優品が多く存在することが明らかとなり、咸亨二年(六七一)頃から儀鳳二年(六七七)頃にかけて書写された所謂「長安宮廷写経」の遺品3点の存在を確認した。その筆致や料紙の優秀さは、漢字文化圏の紙本墨書の写経の頂点を極めたものと云っても間違いない。また景龍二年(七〇八)の「大般涅槃経』巻第七は、奥書より書写の経緯や結縁者名なども知られる点で貴重であり、八世紀初頭を代表する一巻であることがわかった。書写の形式としては、一紙二十八行の書写という唐時代の写経の規格にかない、料紙も簀目が読みとりにくいものが用いられている。これが大英図書館スタインコレクション中の巻第十(S2136)の僚巻であり、現在同一セットの経巻としてはこの両巻のみが知られていることを確認した。この三井文庫本は表紙が失われているものの本文は首尾完存しており、首尾完存しているものが比較的少ない敦煌写本のなかでも貴重な遺巻であることもわかった。

旧蔵者は中国の敦煌写本の収集家の一人として知られる張広建であり、『大般涅槃経』巻第七など8件の写経が「合肥張勲伯蔵」として、1924年(甲子年)に北京・宣武門外の江西会館で開催された「甲子年江西賑災書画古物展覧」に展示されていたことを資料で確認した。