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2015年

脳卒中片麻痺者における歩行中の体幹動揺と非対称性歩行との関連

日本理学療法学術大会(Web)
  • 大谷啓尊
  • ,
  • 大谷啓尊
  • ,
  • 青木修
  • ,
  • 廣田智弘
  • ,
  • 加藤順一
  • ,
  • 安藤啓司

50th
開始ページ
P2-C-0663((J-STAGE))
終了ページ
1510
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14900/cjpt.2014.1510
出版者・発行元
公益社団法人 日本理学療法士協会

【はじめに】脳卒中片麻痺者(以下,片麻痺者)の非対称性歩行は,片側性の運動麻痺と感覚障害によって引き起こされる非対称運動が本質とされる。この非対称性歩行の評価には,麻痺側ステップ時間や麻痺側の床反力前後成分に着目されることが多い。通常,歩行中の体幹は下肢駆動による床反力の影響を受けながらも,低振幅かつ周期的な安定した運動を示す。一方,片麻痺者は健常者と比較し歩行中の体幹動揺が大きくなるため,過剰な体幹動揺は下肢駆動への影響を及ぼし十分な推進力が得られないと推測される。そこで我々は歩行中の体幹に着目し,歩行中の動揺が大きい者は非対称性も大きくなると仮説立てた。先行研究では非対称性歩行の成因として,麻痺側下肢機能やバランス機能も関係することが報告されているため,本研究では身体機能も考慮した上で,歩行中の体幹動揺と非対称性歩行の関係性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は回復期病棟入院中の片麻痺者40名とした(年齢:62.1±9.76歳,発症後期間:105.3±39.7日,麻痺側;右片麻痺:17例,左片麻痺:23例)。身体機能評価として,下肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS),麻痺側下肢深部感覚(深部感覚),Berg Balance Scale(BBS),非麻痺側膝関節伸展筋力を評価した。歩行中の体幹動揺の計測には3軸加速度計を使用した。15mの直線歩行路を設定し,加速度計を第3腰椎後方へ固定した状態で快適歩行を行わせた。なお,普段使用している装具,杖を使用した状態で実施した(サンプリング周波数200Hz)。歩行能力評価として,10m歩行速度,麻痺側および非麻痺側ステップ長,5歩行周期分の左右,上下,前後成分の合成加速度からroot mean square(RMS)を求めた。このRMSは歩行速度の2乗値で除した後にステップ長を乗じることで補正された。麻痺側と非麻痺側のステップ長から,symmetry index[SI=麻痺側/(麻痺側+非麻痺側)]を算出し,非対称性歩行の指標値とした(Allen et al., 2011)。統計解析は,年齢,BRS,深部感覚,BBS,非麻痺側膝関節伸展筋力,歩行速度,RMSの各変数とSIの相関を確認するため,Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数を求めた。次にSIを従属変数,SIと有意な相関を認めたRMSと歩行速度を独立変数として,AICによるステップワイズ法を用いて重回帰分析を行った。なお,SIは一般線形モデルに当てはめるために,元の値から0.5を減算し2乗した値を相関係数および重回帰分析で用いた。統計学的有意水準は5%とした。【結果】歩行速度は0.43±0.22 m/sec,RMSは5.19±3.17 m/sec2,SIは0.57±0.22であった。SIと各変数との相関について,年齢(r=-0.002),BRS(ρ=-0.25),深部感覚(ρ=0.24),BBS(r=-0.22),非麻痺側膝伸展筋力(r=-0.03)RMS(r=0.36),歩行速度(r=-0.51)であった。SIを従属変数とした重回帰分析では,RMSのみ(標準化偏回帰係数β=0.59,p<0.01)が有意な変数として抽出された(自由度調整済み決定係数R2=0.39,F=24.3,p<0.01)。【考察】ステップ長から算出した非対称性歩行の指標であるSIを従属変数とした重回帰分析の結果,RMSのみが関連因子として抽出された。今回,BRSやBBSといった身体機能項目は,SIと相関を認めなかったため独立変数から除外し重回帰分析を実施した。自由度調整済み決定係数より,RMSの変動によってSIの変動の39%が説明できることが確認された。一般的に,RMSは歩行中の体幹動揺性の指標として用いられ,値が大きいほど動揺が大きいことを示す。SIは値が0.5の場合に完全な対称性を示すが,重回帰分析では変換したSIを従属変数とした。そのため,SIが0の場合に完全な対称性となり,0から乖離するほど非対称性の歩行を意味する。よって,歩行中の体幹動揺が大きい片麻痺者ほど,非対称性の歩行を呈しやすいことが結果より示唆された。片麻痺者の歩行では,麻痺側下肢の支持性の低下に対し非麻痺側下肢を振り出すために骨盤の代償運動が生じるとされる(Chen et al., 2003)。今回の結果は,このような代償運動と非対称性歩行の関連を表している可能性がある。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,我々の仮説を支持するものであり,片麻痺者の非対称性歩行と歩行中の体幹動揺において強い関連が示唆された。これは,ステップ長のようなパラメータの非対称性の改善を目的とした理学療法を実施する場合,動的な体幹のコントロール能力に着目する必要性を表していると考えられた。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2014.1510
J-GLOBAL
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201502203272558351
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005416460
URL
http://jglobal.jst.go.jp/public/201502203272558351
ID情報
  • DOI : 10.14900/cjpt.2014.1510
  • J-Global ID : 201502203272558351
  • CiNii Articles ID : 130005416460

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