MISC

2004年9月10日

北海道森町濁川地区における地熱利用型ハウス園芸地域の形成と持続可能性

日本地理学会発表要旨集 = Proceedings of the General Meeting of the Association of Japanese Geographers
  • 梅田 克樹
  • ,
  • 関 孝敏

2004
66
開始ページ
139
終了ページ
139
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2004f.0.154.0
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

1)はじめに 周辺型食糧生産基地・北海道の野菜産地は,生鮮農産物の輸入急増によって深刻な打撃を受けている.しかし,高付加価値化を追求する戦略を採用した一部の野菜産地は,こうした状況下においても高収益を維持することに成功してきた.地熱資源を活用したハウスによって,北海道第二の温室トマト産地に成長した渡島管内森町濁川地区は,その典型例の一つである.本報告の目的は,こうした地熱利用型ハウス園芸地域が濁川地区のみに形成された要因を解明することにある.さらに,その将来にわたる持続可能性を検討することによって,本事例の政策的応用への可能性を模索したい.2)北海道における地熱資源の開発と農業利用 北海道は,豊富な地熱資源に恵まれた地域である.その多様な用途の中でも,地熱エネルギー利用総量の48%を占める最大の用途になっているのが,農業利用(ハウス加温)である.そして,道内にある地熱利用ハウスの過半が,面積わずか6km2にすぎない森町濁川地区に集中している.3)地熱利用型ハウス園芸地域の発展プロセス濁川地区はもともと水田単作地帯だった.しかし,カルデラ底に位置する濁川地区には,自噴を含む多数の温泉源と,のちに地熱発電所が立地するほどの恵まれた熱水貯留層があった.そこで,稲作転換対策として特別転作奨励補助金制度が新設されたことを契機に,この豊富な地熱資源を活用したハウス園芸が本格的に始められた(1970年).特別転作(永年作物への集団転作)に対して転作補助金が上積みされたり(10aあたり5,000円),ハウス建設に対して70%もの高い補助率が適用されたりしたのである.そして,農家24戸が温泉水ハウス36棟を建てて,キュウリ・トマト・タイナを組み合わせた一年三作の土地集約型農業を開始した.1982年に北海道電力森地熱発電所が稼動を始めると,発電後の余剰熱水を活用した熱水ハウス団地が整備された.その後も地熱利用ハウスの普及は順調に進み,源泉数も約80ヵ所に増加した.現在では,熱水・温泉水あわせて3組合の51農家が,約600棟・16haの地熱利用ハウスを経営している.現在主流になっているのは,端境期出荷によって高収益が得られる一年二作のトマト専業経営である.のべ29haの地熱利用ハウスにおいて年間2,400tのトマトを生産しており,その販売高は約8億円に達している.4)地熱利用型ハウス園芸地域の形成要因交通が不便なうえ周辺に有名観光地もない濁川地区は,温泉地としての開発が遅れていた.1960年代には.豊富な地熱資源が未利用のまま残される一方で,危機的な過疎・出稼ぎ問題に直面していた.こうした切迫した状況の中で,村おこしの一手段として地熱利用ハウスが導入されたため,その普及を阻害しかねない温泉権利金(100_から_200万円が相場)の設定は見送られた.また,50_から_200mもボーリングすれば温泉が得られるため,農家による相互扶助のみで温泉掘削・維持を賄っている.暖房用の燃料費も不要である.イニシャルコスト・ランニングコストともに,飛び抜けて安いのである.販売面においては端境期出荷が重要である.特に冬季には,トマトの供給が不足する道内市場と関東2類市場を出荷先にすることで,高単価を維持している.また,通年栽培による年間労働力の平準化も,所得向上に貢献している.5)地熱利用型ハウス園芸地域の持続可能性 近年,地熱資源の枯渇が問題化している.温泉権利金が設定されておらず,一定の間隔さえ空ければ自由に温泉を掘ることができるため,汲み上げ過多による水位低下や湯温の不安定化が生じている.上流に農地防災ダムを建設したことも,地下水位の低下を招いているものと考えられる.第三者機関による地熱資源量の再評価に基づいた利用規制の導入をはじめ,地熱資源の涵養に資する施策の実現が望まれる.地熱資源の枯渇は,地熱利用ハウスによるトマト生産のさらなる拡大を困難にしている.また,収益性を追求して輪作体系を放棄したことが,連作障害による収量減を招いている.大市場において産地として認知されるロットを確保するには,地熱資源と化石燃料,トマトと他作目を上手に組み合わせた新たな経営モデルを開発する必要がある.その一方,一層の高付加価値化を実現するためには,環境にやさしい「温泉育ち」を強調したブランド化の推進や,契約栽培への積極的な取り組みが有効と思われる.これら二律背反する課題を解決するには,販売戦略の抜本的見直しが不可欠であろう.

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2004f.0.154.0
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/10020533720
CiNii Books
http://ci.nii.ac.jp/ncid/AA1115859X
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2004f.0.154.0
  • CiNii Articles ID : 10020533720
  • CiNii Books ID : AA1115859X

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