講演・口頭発表等

2013年

結帯動作に影響する肩甲骨の動き:~安静時における肩甲骨の位置に着目して~

第48回 日本理学療法学術大会
  • 小西 彩香
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  • 澤田 徹
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  • 熊田 仁
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  • 近藤 義剛
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  • 三宅 貴之
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  • 荒木 妙子
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  • 藤本 玲奈
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  • 田中 慧
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  • 中島 悠
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  • 清水 浩之
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  • 横田 淳司

開催年月日
2013年 - 2013年
記述言語
日本語
会議種別
主催者
公益社団法人 日本理学療法士協会

【はじめに、目的】肩関節に疾患を持つ患者の多くは、臨床上結帯動作に支障をきたしている場合が多い。結帯動作について先行研究では、肩甲胸郭関節の動きに対して肩甲上腕関節の動きの割合が大きいことが報告されている。しかし、肩関節に疾患を持つ患者に対し、肩甲上腕関節に直接アプローチすることは、疼痛や術後管理の為困難な場合がある。その際、肩甲胸郭関節の代償的な動きが重要となるが、その基となる結帯動作時の肩甲骨の動きを調査した報告は少ない。本研究の目的は、健常人における結帯動作時の肩甲骨の動きを評価すること、及び被験者間における肩甲骨の位置と肩甲骨の動きが結帯動作に及ぼす影響について検討することである。【方法】対象は肩関節に既往症のない成人男性31名(平均年齢25.4歳)。<結帯動作時の肩甲骨の動き>結帯動作の開始肢位は上肢下垂位とし、上肢がL5棘突起(以下L5)、Th12棘突起 (以下Th12 )それぞれに到達するよう指示し、その時の肩甲骨の動きを評価した。上肢のランドマークは橈骨茎状突起とした。肩甲骨の運動は、挙上、上方回旋、前傾の3方向とした。挙上は、肩甲骨下角から10cm下方の点を基準点とし、上方向に移動した距離をメジャーで測定した。上方回旋は、肩甲骨下角と棘三角を結んだ線と脊柱のなす角を角度計にて計測した。前傾は、床面からの垂線に対する肩甲骨の傾きをデジタルアングルメーター(シンワ社製)にて測定した。<肩甲骨の位置と肩甲骨の動き>結帯動作の最大距離を計測するため、上肢がヤコビー線に沿って対側方向へ水平移動する距離(以下、上肢移動距離)を計測した。上肢移動距離は被験者全体で、標準偏差を算出し、標準偏差から外れた両群を、上肢移動距離が短い群(A群)、長い群(B群)の2群に分けた。2群間での肩甲骨の動きを調べると共に肩甲骨の位置を計測した。統計処理は、T検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究実施に際し、書面および口頭にて十分な内容説明を行い、同意のもと実施した。【結果】<結帯動作時の肩甲骨の動き> 挙上について、L5では平均2.5cm±1.0cm(p<0.01)、Th12では平均3.2 cm±1.4cm(p<0.01)でありL5、Th12共に有意差を認めた。前傾について、開始肢位では平均17.3°±4.7°、L5では平均 21.5°±6.1°(p<0.01)、Th12では平均24.1°±6.1° (p<0.01)でありL5、Th12共に有意差を認めた。一方、上方回旋について、開始肢位では平均5.0°±6.4 °、L5では平均3.4°±6.0°、Th12では平均3.0 °±6.0 °でありL5、Th12共に有意差を認めなかった。<A群B群間での肩甲骨の動き>挙上、上方回旋、前傾の動きの変化量についてA群B群間で有意差は認めなかった。<A群B群間の肩甲骨の位置>前傾についてA群では19.4°±4.5°、B群では14.6°±3.6°(p<0.05)、上方回旋についてA群では8.4°±5.2、B群では0.6°±5.3°(p<0.01)であり、2方向に有意差を認めた。【考察】結帯動作時の肩甲骨の動きについて、L5、Th12共に前傾、挙上が行われていたが、上方回旋の動きは有意差を認めなかった。上方回旋に関しては被験者間で運動パターンが違うものと考えられる。次にA群B群間で肩甲骨の動きの変化量を比較したところ、2群間での有意差は認められなかった。その原因として、今回被験者が健常人であり肩甲上腕関節の可動性が十分であったことから、先行研究でも述べられているように結帯動作において肩甲骨の動きよりも肩甲上腕関節での動きが大きく関与したものと考えられた。一方、肩甲骨の位置と結帯動作時の上肢移動距離に関しては有意差を認めた。つまり、安静時の肩甲骨の位置が前傾、上方回旋していると上肢移動距離は短くなった。その原因として、通常よりも肩甲骨が上方回旋、前傾していることによって臼蓋は上前方を向くため、肩甲上腕関節の伸展、内旋の動きがより多く必要になると考えられる。また、上肢挙上時に肩甲上腕リズムが存在するのと同様に、結帯動作においても肩甲骨の前傾と肩甲上腕関節の伸展、内旋が、協調したリズムの中で行われていると仮定すれば、開始肢位で肩甲骨の前傾が大きい場合、そのリズムに破綻をきたし、結果的に上肢が伸展、内旋しにくくなることで上肢移動距離が短くなったと推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究では、結帯動作における肩甲骨の動きの指標を示すことができた。結帯動作の上肢移動距離には、肩甲骨の可動性よりも肩甲骨の位置に着目する必要があることが示唆された。

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14900/cjpt.2012.0.48101593.0