錯視 日誌

フーリエ解析の講義でルベーグ積分はどうするか

 ルベーグ積分を予備知識として仮定するかどうかによって,フーリエ解析の講義はかなりの影響を受けます。
 応用系の講義では、フーリエ級数やフーリエ変換を計算でき、実際に使えるようにしなければあまり意味がありません。ルベーグ積分にこだわり、一般論や細かい議論に立ち入って学んでいる時間もありませんし、そもそもモティべーションが沸かないでしょう。
 ところが,実際にリーマン積分の範囲でフーリエ解析を教えてみると、これが結構数学畑の人間にはストレスのたまるものです。たとえば、積分と極限の交換など、ルベーグ積分論を使えば1行で説明がすむものを、リーマン積分で証明しようとするとたいへんなこともあります。また、正規直交基底の話に絡んで L2 の完備性はどう扱うのかという問題にも直面します。
 一方、数学系ではどうか?まずはルベーグ積分を半期くらいひたすら学び、しかるのち安心してフーリエ解析を学んでいくのがスタンダードといえるでしょう。ルベーグ積分、関数解析、超関数、フーリエ解析というきれいに整備された舗装道路を走るので、積み上げ方式ではありますが、流れに乗れれば必要なことを一般的かつ効率良く学ぶことができます。したがって、早く次の段階に進めるというメリットがあります。
 ところで、すべての数学科でそのルートを辿っているのかというとそうでもないようです。プリンストン解析学講義を見ると、まずルベーグ積分を仮定せずにフーリエ解析を学びます。その後で、関数論とルベーグ積分が用意され、これらの予備知識を仮定して、フーリエ解析がちりばめられて関数解析,確率論が教えられます。 この方法のメリットは、フーリエ解析というバックグラウンドを身につけて、それからルベーグ積分や関数解析を学んだ方が、古典解析の素養を身につけながら学べるということでしょう。ある意味,解析学の発展の流れに沿っています。
 なお、私自身はどちらのコースが良いとか悪いとかということはないと思います。どちらにしても内容をマスターしてゴールまで到達し、さらに次のステップである最先端のレベルに進むことが肝要でしょう。
 もう一つのルートは情報科学系向けのものです。こちらでは、むしろ離散フーリエ解析が主要な役割を果します。計算機を使って周波数解析などをすることが必要になります。計算機演習もあった方が望ましいところです。実社会で使われている技術と直結して教えられるので,学生のモチベーションは保てます。この場合、ルベーグ積分にまで立ち入って教えることは労多くして効少なしといったところでしょうか。