高安 啓介

これまで、20世紀の始めに起こった近代デザインについて論じてきましたが、現在は、社会デザインとよばれる分野について、さまざま角度から考察をおこなっています。ソーシャルデザインともよばれる社会デザインは、利益の最大化をねらうのでなく、社会問題の解決を優先するデザインのことで、20世紀後半になって商業デザインの負の側面が目立つにつれて自覚されるようになった分野です。近年、一部のデザイナーはもはやモノではなく、社会の仕組みや、人と人との関係を生み出すことを本分とするようになっているならば、デザイナーがモノを美しく見せることをやめてなお、何かを美しくするのでしょうか。そこでわたしは、モノをつくらないデザインの美学について考えています。一般にウェルビーイングとよばれる幸福な状態にどのような美しさが含まれているのか、デザイナーはそうした美しさをいかにに生み出すのかが問われます。