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2007年5月 - 2007年5月

ダイズのイソフラボン特異的βグルコシダーゼによるイソフラボン代謝調節機構の解明と応用


イソフラボンはダイズをはじめとするマメ科植物に多量に含まれ、高等植物中において抗酸化作用や紫外線防御機能など様々な生理活性を示すが、とりわけ重要な機能としては、窒素固定のための微生物共生におけるシグナル分子としての役割と、植物病原菌感染に対する抗菌物質(ファイトアレキシン)としての役割があげられる。一方で、イソフラボンはそれを摂取する動物の体内で代謝されることによりエストロゲン様の作用を示すことや、乳癌や前立腺癌、循環器系疾患に対し効果的な予防治療薬となり得ることから、近年、ダイズ食品消費量の特に多い我が国のみならず世界的に注目が高まっている。植物細胞内で生合成されたイソフラボンのほとんどは直ちに配糖化およびアシル化の修飾を受け、溶解度の高い配糖体として液胞内に蓄積されることが従来から知られていた。一方、これまでに明らかになっているイソフラボンの生理機能は主に修飾を受けていないアグリコン型で最も強く発現される。貯蔵形態である修飾型イソフラボンを脱修飾することによるイソフラボンアグリコンの迅速な放出は、植物-微生物相互作用において有効な代謝戦略であると考えられるがその詳細はほとんど明らかにされていなかった。そこで本研究では、脱修飾過程に関るイソフラボン特異的β-グルコシダーゼを過剰発現あるいはノックダウンさせた形質転換ダイズを用いた分子生物学的解析により、根粒菌共生過程初期におけるシグナル伝達物質放出、および植物病原菌に対する防御応答におけるファイトアレキシン放出における脱修飾酵素を介したイソフラボン代謝制御機構を解明することを目標とする。
本研究の成果を応用することで、ダイズにおけるイソフラボンアグリコンの放出量を効果的に制御することが可能となる。イソフラボンシグナルの増大によるダイズ-根粒菌間の共生の促進は、窒素固定能の増強とそれに伴う収量増大へつながる。これは、化石燃料を消費して製造される窒素肥料と比較して環境への負担がはるかに少ない。また、イソフラボン骨格のファイトアレキシンの生物工学的応用は病虫害に対する防御機構改変に非常に有効である。さらに、イソフラボンの代謝工学は機能性食品高生産という観点からも、アジア諸国の中でも特にダイズ食品の消費量の多い我が国にとって、重要度の高い研究課題であると考える。